サンフランシスコ事務所 金堀宏宣 (PDF File)
宇宙産業の市場規模は年々拡大しており、米国では民間企業の参入が相次いでいる。連邦政府が主導してきたロケット開発の分野でも、新興企業が再利用可能な打ち上げロケットの開発を進めるなど、今後の動向が注目される。宇宙空間の利用や宇宙ビジネスに関わる法整備などクリアすべき課題も多いが、大きな可能性を秘める宇宙産業の現状と今後について展望したい。

1. はじめに

人類による宇宙開発の第一歩は、1957 年、旧ソビエト連邦による人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げ成功である。このニュースは、科学分野で最先端の技術を持つと自負していた米国に大きな衝撃を与えた。危機感を抱いた米国は、翌年にアメリカ航空宇宙局(NASA)を設立し、1969 年にはアポロ 11 号による史上初の月面着陸を成功させた。
宇宙開発の第一歩から約半世紀を経た現在、これまで政府が膨大な予算を投入し、軍事及び安全保障に関わる開発が主流だったこの分野に、ビジネスの可能性を見出し、果敢に挑戦する企業のニュースが報じられる機会が増えている。
例えば、新興企業によるロケットの打ち上げ、初の垂直着陸の成功、惑星資源を調査するための衛星打ち上げなど、民間企業による宇宙ビジネスへの参入・拡大の動きが活発になっている。
(1)世界の宇宙産業
世界の宇宙産業の売上高は、図1に示されるように増加の一途を辿っている。2005 年(約 1,767 億ドル)から 2014 年(3,300 億ドル)の9年間を通してみると、年平均 9.6%の高い成長を続けており、中国やインドなどの経済成長率を上回る勢いで伸びていることが分かる。また、宇宙開発関連の政府予算額(約 792億ドル)を比べてみると、米連邦政府の約 430 億ドルという金額は、欧州宇宙機関1(約 56 億ドル)、ロシア(約 49 億ドル)、中国(約 43 億ドル)、日本(約 30億ドル)を圧倒的に上回っている。
(2)商業宇宙活動の売上高
世界の宇宙産業分野における売上の内訳2(図2)が示すとおり、2014 年の売上高に占める商業活動の割合は、全体の4分の3に達している。近年、政府では、民間企業の技術やノウハウを活用した低コストで効率的な宇宙開発、宇宙産業の促進による産業基盤の強化、関連サービス等の産業振興に力を入れており、今後、宇宙産業分野における商業活動の売上高は着実に拡大していくことが見込まれている。

2.宇宙産業の振興と関連する法制度

2015 年 11 月、米連邦政府は宇宙の商業利用推進を目的とした「2015 年宇宙法」を成立させた。日米を含む主要国が批准し 1967 年に発効した宇宙条約では、「月やその他の天体を含む宇宙空間は、いかなる手段においても国家による取得の対象にならない」としているため、「2015 年宇宙法」は条約違反ではないかという疑問の声も出ているが、これまで宇宙空間の領有権解釈が曖昧だった部分について、商業目的で利用するための筋道をつけることになり、米国は着実に宇宙ビジネスの発展に向けた動きを加速させていくと考えられる3

前述うな連邦政府の動きに合わせて、米国各州も宇宙開発を促進するための施策を打ち出し、宇宙ビジネスを軸とした産業振興を進めている。フロリダ州、ニューメキシコ州などでは、産学官による宇宙関連組織が設置され、宇宙港の開港などに力を入れている。これらの州は、宇宙飛行事業への税還付、宇宙飛行関係の資産に対する免税、研究開発への優遇税制などのインセンティブを民間企業に与え、積極的に宇宙産業の誘致に取り組んでいる。

ところで、宇宙港(射場を含む)は米国に実際どのくらいあるかご存知だろうか。図3は、NASA が発表している米国内の宇宙港所在地である。連邦政府の宇宙港と商業宇宙港及び計画中の宇宙港を分けてプロットされているが、計画中のものも含めると、実に 20 箇所以上の宇宙港があり、さらに各州は、前述のインセンティブを活用し、宇宙港のインフラ設備を中心に宇宙関連企業の集積を目指している。

3.民間企業による挑戦

宇宙産業を分野別に分類すると、①打ち上げ産業、②人工衛星製造、③宇宙ステーション、④地上設備(通信関係)、⑤宇宙飛行士の輸送、⑥衛星サービス、⑦保険などの関連サービスなど多岐にわたる。近年では、宇宙ビジネスの拡大を見込み、IT 企業の創業者やベンチャーキャピタル等が参入・投資する動きも活発になっている。
米国で宇宙ビジネスを展開する主な民間企業は、宇宙港があり、宇宙産業に力を入れている州に集まっている(表1)。電気自動車大手・テスラモーターズの CEO であるイーロン・マスク氏が創業したスペース X 社は、2010 年に初の宇宙飛行に成功し、その後、NASA との商業軌道輸送サービス4契約に基づき、民間企業では初となる国際宇宙ステーション(ISS)への物資の輸送、地球への帰還にも成功している。

また、ネット通販大手・アマゾンドットコムのジェフ・ベソス CEO が創業したブルー・オリジン社は、2015 年 11 月、自社で開発したロケットを打ち上げ、地上に垂直着陸させることに成功した。さらに、本年1月には同じロケットを再利用し、同様に打ち上げと着陸に成功した。

この他にも、ロボットを使った小惑星の採掘計画を公表したプラネタリー・リソーシズ社、月面での鉱物発掘と水資源開発の計画を発表したムーン・エクスプレス社やシャクルトン・エナジー社など、民間企業による宇宙開発への挑戦が次々と明らかになっている。

4.課題と今後の展望

人工衛星による国境を超えた広範囲のリモートセンシングや、宇宙にある資源の活用など、地上にはない環境・資源を活用することで、これまで実現できなかった新たなビジネスの可能性が広がることが期待される。一方で、初期投資の負担が大きく、失敗のリスクが高いことも事実である。宇宙空間を利用したビジネスを考えた場合、インフラにかかる保守・メンテナンス等の維持費だけをみても、地上に比べて高く、作業環境にも様々な制限がある。また、地上にある既存サービスよりも優位性のあるサービスを提供できなければ、そもそもビジネスとして成り立たない。

このような厳しい条件下においても、宇宙産業には大きな可能性があるため、日本でも一元的に宇宙開発に取組み、民生分野における宇宙利用推進や産業・科学技術基盤の維持・強化を図るため、宇宙開発戦略本部を内閣に設置し、宇宙基本計画を策定中である。また、県内に目を向けてみると、人工衛星の故障の原因とされる放電現象について、九州工業大学が世界で初めて実験を行う超小型衛星を開発した。この衛星は、本年2月に「H2A ロケット」で打ち上げられ、地球周回軌道に投入された。この実験が今後の人工衛星の故障防止に活かされることが期待されている。

ユニークな技術やノウハウを持つ国内の企業や大学が、既存の事業の枠を超えて宇宙産業分野への参入を目指す日は、そう遠くないのかもしれない。

[脚注]

  1. 欧州各国で設立された宇宙開発・研究機関。現在 22 カ国が加盟。本部はフランス。
  2. 円グラフの「商業設備関係」には、宇宙船、打ち上げサービスなどの地上設備などが含まれる。「商業製品」には、情報通信、地球観測、航行支援などが含まれる。
  3. 米国は 1984 年に商業打ち上げ法を制定。宇宙物体の打ち上げ、帰還、打ち上げ射場の管理について、許認可制度、損害賠償制度を設けている。
  4. 商業軌道輸送サービス(Commercial Orbital Transportation Service : COTS)とは、ISS への物資等の輸送を商業化するための計画。NASA が計画し調整を行っている。