サンフランシスコ事務所 金堀宏宣 (PDF File)
スマートシティは、次世代電力網の整備による電力の需給バランスの最適化といったエネルギー分野に限られたものではない。通信や交通システム、住環境、遠隔診療など様々な面から生活の質を向上させ、同時に、持続可能な社会システムの構築を目指すものである。米国内各都市の取組み事例からその将来性や課題について検証し、今後の動向を展望する。

1. スマートシティの現状

図1 スマートシティの概念図スマートシティについては統一された定義がなく、世界各国で事業を実施する団体や企業等が様々な見解を示している。一般的には、最新技術(情報技術が中心となることが多い)を積極的に活用し、現代社会に顕在化したエネルギー消費、都市への人口集中、高齢化社会、環境などの諸問題を解決し、生活の質を向上させながら、安全・安心、便利、かつ経済や環境面において持続可能な次世代都市の構築を目指すものである、とされている。
その市場規模は、どの分野をスマートシティの対象として捉えるかによっても大きく変わってくるが、米国調査会社[1]によれば、2025 年までに1 兆5,650 億ドル(約192 兆円)にまで拡大し、世界では26 以上の都市がスマートシティとなり、その半数を欧米の都市が占めると予測されている。
スマートシティの概念図(図1)にあるとおり、情報技術の発展により様々なものがネットにつながり、リアルタイムで情報を収集・分析することが可能になってきたことで、その市場規模とビジネスチャンスはますます拡大していくと考えられている。
表1 スマートシティでネットにつながるモノの数表1は、米国IT 調査会社のガートナー社[2]が発表した、世界のスマートシティ市場におけるネットにつながるモノ(Connected Things)の数を予測したものである。2015 年現在で合計11 億個となっているが、2年後の2017年には2.4 倍の26.7 億個にまで拡大し、さらに2020 年には合計で97億個とも予測されている。特にスマートホームとスマートビルディングは、分類別の割合を見ると、2017年に合わせて45%を占め、2020 年には85%まで増えていくと予測されるなど、飛躍的な拡大が見込まれている。
このように将来性の高いスマートシティ市場は、独自の技術やサービスを提供できる企業・スタートアップ等にとって、大きな収益を狙えるチャンスと捉えることができる。

2.米国における関連施策と取組み事例

2015 年9 月、連邦政府はスマートシティ構想に1.6 億ドル超(約197 億円)の予算を投入することを発表[3]した。米国の20以上の都市がこのプロジェクトに参加し、企業や大学、自治体が連携した取組みを展開する計画となっている。その内訳を見てみると、米国立科学財団(National Science Foundation)や国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology)は、スマートシティの研究インフラ構築に3,500 万ドル(約43 億円)以上の助成金、1,000 万ドル(約12 億円)以上の投資を予定している。また、国土安全保障省、運輸省、エネルギー省、環境保護局などの関係機関においては、スマートシティ関連で約7,000 万ドル(約86 億円)の事業予算、および4,500 万ドル(約55億円)以上の投資が計画されている。
このように、全米を挙げて推進されているスマートシティに関する取組みの中から、サンノゼ市とサンフランシスコ市の事例について以下で紹介したい。
図2 サンノゼ市とインテル社の提携について(1)サンノゼ市
ホワイトハウスが実施する「SmartAmerica Challenge[4]」で採択されたサンノゼ市とインテル社の官民合同プロジェクトは、インテル社が持つリアルタイムモニターなどの技術を利用し、水質、大気汚染、騒音などのデータをセンサーで収集・解析する取組みである(図2)。これにより、データに基づいた迅速・的確な対策を採ることが可能になると期待されており、サンノゼ市が2007年に環境対応を促進するために、エネルギー消費の削減などを目標に掲げた「Green Vision」を後押しする形にもなっている。
図3 SF OpenData のウェブサイト(2)サンフランシスコ市
サンフランシスコ市は、行政が収集したデータを「SF OpenData」としてウェブ上に公開し、企業やNPO、大学、個人などに無償で提供している(図3)。例えば、自転車の駐輪場がどこに何台分あるのか、インフルエンザの予防接種を受けられる医療機関がどこにあるのか、自社が入居する商業ビルのエネルギー効率はどうなっているのか、犯罪がどこで発生したのかなど、ありとあらゆるデータを見ることができる。情報をオープンにすることにより、市民の利便性向上、行政サービスの効率化だけでなく、新たなビジネスの創出や犯罪件数の減少などにつながると考えられている。
また、オープンデータを使って制作されたアプリやレポートが、「DataSF」という関連サイトに掲載されており、こちらも自由に利用することができる。犯罪が発生した場所を地図にプロットしたものを時系列で確認することができるアプリなど、ユニークで有用なアプリも提供されている。データをうまく活用し、住民の生活の質を向上させている好例の一つと言えるだろう。

3.スマートシティの将来性と課題

一方、スマートシティの実現にあたっては、①インフラ等の整備にかかる費用負担についての考え方を明確にする必要がある、②自治体や関係機関の部門間の垣根を越えた、一体的で実行力のある推進体制による事業運営が求められる、③新たな技術やシステムの導入によって影響を受ける住民の安全やプライバシー、法規制について十分に検討する必要がある、④インフラを整備しただけではスマートシティは機能せず、住民の理解と協力を得ることが不可欠である、といった多くの課題がある。
そのため、米商務省経済発展局では、それらの課題を解決するために有用なサービス・技術を有する企業、スマートシティ形成に向けて大きなインパクトを与えることができるスタートアップを支援していくための資金を用意している。
スマートシティを目指すことによって、効率的なエネルギー消費、安全・安心で持続可能な社会を実現できるだけでなく、その形成に取り組んでいく過程で、これまで顕在化していなかった課題を発見し、それに対処するための新たなビジネスが生まれることが期待される。

4.今後の展望

都市部への人口流入、エネルギー消費量の増大、高齢化社会の到来など、先進国の各都市は共通する課題を抱えている。今後は、新興国においても同様の課題に直面することが考えられるため、先駆的な取組みを通じてスマートシティ実現のノウハウを蓄積し、将来、アジアをはじめ新しい市場へ展開していくことも重要になってくると考えられる。
最近、インドでは、モディ首相が国内100 都市のスマートシティ化構想を発表し、積極的な投資の姿勢を示している。また、2015 年11 月には、米マイクロソフト社がインドのスマートシティ関連サービス開発企業を対象として、一社あたり12 万ドル(約1,500 万円)相当の自社クラウドプラットフォームを活用できるようにすると発表するなど、活発な動きが出てきている。
今後、先進国の取組みだけでなく、インドをはじめアジア都市圏のスマートシティ関連市場の動向についても注視していくべきであろう。※ 為替レート 1ドル123 円で換算

[脚注]

  1. フロスト&サリバン社:国際マーケティング、市場調査、コンサルティング業。本社は米カリフォルニア州マウンテンビュー市。
  2. 1979年設立のIT分野における世界最大規模の調査会社。本社は米国コネチカット州スタンフォード市。
  3. ホワイトハウス公式ウェブサイト、2015年9 月14日プレスリリースにて発表。
    https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2015/09/14/fact-sheet-administration-announces-new-smart-cities-initiative-help
  4. 米連邦政府がIoT(モノのインターネット。米政府ではCyber-Physic Systemsと呼ぶ。)を推進するために立ち上げた、ホワイトハウス直下のプロジェクト。