サンフランシスコ事務所 金堀宏宣 (PDF File)
情報技術を活用した住民サービスの手段は、その技術の発展と共に変化を続けている。情報端末がパソコンからスマートフォンやタブレットに変化したことで、場所を選ぶことなく気軽に情報の受発信をできるようになった。米国では、民間企業やNPO が様々な形で住民サービスを提供している事例をみることができる。本稿では、米国で利用されているサービスの事例を紹介し、この分野における今後の動向について展望したい。

1. はじめに

スマートフォンやタブレットといった情報端末をいつでもどこでも利用できる環境が整い、時間と場所を選ぶことなくオンラインショッピングやレストラン・イベント等の予約、銀行振込など、様々なサービスが手元の端末を通して利用できるようになった。 図1: 情報通信機器の世帯保有状況図1のスマートフォンおよびタブレット型端末の世帯保有率に示されているように、日本ではスマートフォンが2010 年末(平成22 年)の9.7%から3年で62.6%まで急増し、タブレットも同7.2%から21.9%に増加している。今後ますます、モバイル端末の保有率は増えていくと予想されている。
このような情報端末の変化や情報技術の発展とともに、日本における住民サービスの手段は、ウェブサイトによる情報発信、公共施設やイベント等の登録・予約システムに始まり、最近ではツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアによる情報発信など、ユーザーのニーズと共に進化している。また、オープンデータを使った課題解決やビッグデータを活用した観光地の活性化などに自治体が取り組んでいることもメディアで頻繁に取り上げられている。
一方、米国における情報技術を活用したサービスは、政府や自治体による利活用が日本よりも進んでおり、民間企業やNPO が住民サービスを担う事例をみることができる。ここでは、米国の先進的な事例をいくつかご紹介したい。

2.情報技術を活用した住民サービス

シリコンバレーを含むサンフランシスコベイエリアは、米国の中でもアーリーアダプター[1]が多いと言われている。この地域には、これまでにない新しいサービスを開始しているスタートアップ[2]が多く、タクシー配車サービスを展開しているUber社や、世界最大の宿泊サービスのプラットフォームを構築したAirbnb社などは、日本でも耳にされた方が多いのではないだろうか。これらの会社は、米国サンフランシスコ発のサービスとして、全米のみならず世界各地で事業展開を図っている。
図2:Nextdoor社のホームページ(1)Nextdoor 社
このように、米国では次々と新しいサービスが誕生しているが、中でも、2010 年にサービスを立ち上げ、今年3月にはシリコンバレーの著名なベンチャーキャピタルから130 万ドル(約1.6 億円)の資金を調達したNextdoor 社に注目してみたい。同社は、地域に住む近隣住民同士を繋ぎ、地域内の様々な情報の交換や、自治体、警察からの催し物・会議・セミナー開催の案内、犯罪や災害警告などの情報の受発信に特化したソーシャルネットワークサービス(地域密着型SNS)を提供している。このサービスは、全米58,000 箇所のエリアで利用されるようになり、Uber 社やAirbnb 社と共に米メディアCNBC が選ぶDisruptor[3]50 社にも選出された。
同社は、より安全で安心なコミュニティーの形成を目指すことをコンセプトにこのサービスを立ち上げた。実際にどのような書き込みがされているかというと、「愛犬が逃げ出したので、見つけたら教えてください。(愛犬の写真添付)」、「姪っ子が初めて我が家に遊びに来るのだけど、どこに連れて行ったらいいだろうか?」、「夏休みの間だけ家庭教師を探しています。」といったものもあれば、犯罪や事故に関する情報などもある。より身近な存在である地域に関する情報が、このサイトに集まるようになっている。
このサービスに目をつけたニューヨーク市は、行政、警察、消防などが同社と連携することを公表し、住民サービスや災害に関する情報の発信などに利用している。
図3:シカゴ市のオープンデータポータルサイト(2)Socrata 社
米国では、政府が持つデータを可能な限り一般に公開し、有効に活用することを通じて、新しいサービスやビジネスを創出する動きが活発になっている[4]
2007 年にシアトルで創業したSocrata 社は、政府や公共機関が保有する膨大なデータを分かりやすく、かつ利用しやすい形で公開するためのクラウド[5]ベースのソフトウェアを提供している。同社のサービスは、サンフランシスコ市、シカゴ市、ワシントン州、イリノイ州など多くの自治体や州政府などが利用しているが、シカゴ市とクック郡[6]、イリノイ州という別々の組織がそれぞれ保有していたデータを同社のソフトウェアを使って統合し、ユーザー目線で使い易いポータルサイトとして立ち上げた事例なども出ている(図3)。
行政がただデータを公開するだけでは、利用するユーザーにとって使いにくいフォーマットやファイルとなってしまうケースも多く、そこから新しいサービスやビジネスの創出は期待できないため、同社は情報の提供方法や見せ方をエンジニア、デザイナーの目線でチェックし、改良を続けている。

3.デトロイト市の復活を支えるサービス

2013 年に財政破綻したデトロイト市では、2014 年12 月に破産法の管理下を脱した。その後も徹底した歳出削減を行いつつ、住民サービスを向上させる手段として情報技術を活用している。先に紹介したSocrata 社が2015 年2 月に社会貢献のために設立したSocrata 財団からの技術支援もあり、オープンデータのポータルサイト「Detroit Open data[7]」を立ち上げた。市長は、行政と市民の間にある壁を取り除き、サービスを受ける住民に公共データと情報を広く公開することで、市政の透明化と効率化を高め、行政サービスの向上を目指している。また、同時に住民や企業、起業家、クリエーターの新たな発想で斬新なサービスや製品が生まれ、デトロイト市がより住みやすい都市になることが期待されている。

4.今後の展望

米国と日本では、インターネット、スマートフォンなどの利用状況やネット上に公開される個人情報等に対する国民の考え方にも違いがあるため、一概に比較することはできない。しかし、自治体が抱える課題には共通するものも多く、この分野で先行する米国の取組みが参考になると考える。
現地のベンチャーキャピタルによれば、今後開発される製品・サービスは、4つの要素(ソーシャルネットワーク、モバイル、クラウド、ビッグデータ)を全て網羅する必要があると言われている。これは、民間の製品・サービスだけでなく、近い将来、住民サービスの形態にも影響を及ぼすようになってくるだろう。
先に紹介したNextdoor 社は、モバイル対応のアプリケーションによりいつでも情報の受発信ができ、情報はクラウドで管理されている。今後、このサイトに掲載される情報は貴重な情報源として蓄積され、それはビッグデータとしてさらに次の新しいサービスに有効活用されると考えられる。
今後、限られた予算の中で、行政の透明化と効率化を図りつつ、高齢化や人口減少などに起因する様々な課題に対処し、住民サービスを向上させるためには、情報技術によるスケーラビリティー[8]をうまく利用することが鍵となってくるだろう。

※ 為替レート 1ドル100 円で換算

[脚注]

  1. アーリーアダプター:一般の人たちよりも早い段階で新しい製品やサービス、ライフスタイルなどを取り入れ、自らそれを判断し、その他の消費者やユーザーへ大きな影響を与える消費者層のこと。この層への普及が進むと、一般への普及率が一気に上昇するとされる。
  2. スタートアップ:新しい価値のあるモノやサービスを立ち上げ、短期間に急速に拡大し成長を続けることができる会社の形態をいう
  3. Disruptor:既存の業界をDisrupt(破壊、変革)し、新たな価値を提供するスタートアップをいう。
  4. 米国は、2009年から連邦政府が保有する情報を、企業や一般市民が簡単に入手できるポータルサイト「Data.gov」を立ち上げるなど、広く一般に情報を公開している。
  5. クラウド:PCや携帯などの情報端末ではなく、ネットワーク上のサーバーにデータを保存するサービスのこと。
  6. クック郡:イリノイ州に位置し、米国で19番目に大きな自治体。郡庁所在地はシカゴ市。
  7. Detroit Open data:https://data.detroitmi.gov
  8. スケーラビリティー:大規模化してもコストなどが規模に比例して増えないこと。