サンフランシスコ事務所 金堀宏宣 (PDF File)
シリコンバレーでは近年、あらゆるモノがインターネットに繋がり新しいサービスが誕生している。アジアが世界経済を牽引する巨大マーケットとなった今日でも、多くの新しいサービスや技術が3億人の市場を持つ米国で生まれ、アジアへと流れていく構図は変わらない。
グローバルなビジネス展開において、米国に一つの軸足を置くことによるメリットは極めて大きい。本稿では、世界最大規模の家電見本市への参加を通して、米国を起点とした新技術や新サービスによる市場開拓について考察する。

1. はじめに

図2:IoT のイメージ図今年1月、ラスベガスで世界最大規模の家電・情報通信分野等の総合見本市である「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」が開催された。
過去最高の 17 万人を超える来場者が訪れた今年の CES で注目を集めていたのは、高性能な最先端ロボットのみならず、植物栽培キットや腕時計、靴、自動車など、これまで家電・IT の見本市には無縁と思われていたモノである。様々なモノにセンサーが取り付けられ、インターネットに接続することが可能となったことにより、新しい製品やサービスが次々に生まれている。技術革新および製品化が、このまま過去に例のないスピードで加速していけば、会場に展示されていたものの多くが、数年後には実用化されているのではないかと期待が膨らむのは私だけではないだろう。
さらに、出展企業の中には「Internet of Everything」と謳ったところもあり、私たちの身の回りの全てのものがインターネットに繋がる世界が、もうすぐそこまで来ているのでは、というような感覚にもなった。
ちなみに、CES への来場者 17 万人のうち約 4 万 5 千人が米国外から訪れていることからも分かるとおり、この見本市は世界中から注目されるイベントであり、米国から発信されるトレンドが世界の市場に大きな影響を及ぼしていることが窺い知れる。以下、私がこの見本市に参加して感じたことを踏まえ、今後の米国でのビジネス展開について考えてみたい。

2.スタートアップの出展数は過去最高

写真2 TEMP TRAQ 社の製品今年の展示会の特徴は、スタートアップによる出展が過去最高の数を記録したことである。様々な要因が考えられるが、その一つとして、センサーやマイクロプロセッサなどの電子機器の小型化や低価格化、WiFi などの通信ネットワークがどこでも簡単に利用できるようになったことに伴い、資金やマンパワーに限りのあるスタートアップでも新製品やサービスを開発できる環境が整ってきたことが挙げられる。

(1)体温計
写真2は、CES に出展していたスタートアップが開発した製品で、子供の脇の下に貼り付けたシールに温度センサーが取り付けられており、このセンサーによって集められたデータがスマートフォン等でリアルタイムに表示されるようになっている。体温が上昇した際には警告音で知らせる機能もあり、収集されたデータを医者と共有することもできる。

このように、センサーを様々なモノ、場所に設置、格納することができるようになり、収集したデータをリアルタイムで検知し、それを元に、あるいはそれを分析して得られた結果から、警告音を発信したり機器を作動させたりすることが可能となった。

写真3 靴底部分にセンサーが付いたシューズ(2)ランニングシューズ
写真3は、靴底の中間部分にセンサーを取り付けたランニングシューズである。ランニング中の様々なデータ(最初に着地した足裏の部分、着地時の反発力、着地のリズムなど)を収集し、腕時計と同じように手首に装着して利用するコンピュータである「スマートウォッチ」に表示することによって、ランニングフォームの矯正に活かすことができるものである。

前述の体温計の例もそうであるが、リアルタイムで多くのデータを収集できるようになったことは、製品やサービスの質の向上につながるだけでなく、それらの製品やサービスの利用を通じて蓄積されたデータを別の分野に応用することによって、さらに新たな製品やサービスが生まれるという好循環を生み出すと言われている。

CES に出展された多種多様な製品やサービスを見ていると、革新的な技術もさることながら、便利に、快適に、そして楽しく利用できるという「ユーザー目線のアイデア」次第で、これまでにない新たなビジネスが生まれてくる可能性を強く感じた。また、これまで大手企業が独占していたような分野においても、大企業より機動性の高い中小企業やスタートアップが新規ビジネスを展開していくチャンスは広がっていくのではないだろうか。例えば、近年、高性能な 3D プリンターが開発されたことに伴い、今までよりも格段にコストを抑えて、かつ短期間に試作品を作ることができるようになったことも、新規ビジネス展開の追い風になっていると言えるだろう。

3.米国市場を起点に

図1 シリコンバレー地区の人種構成米国は人種の坩堝(るつぼ)と言われるが、特に当事務所がある「サンフラシスコ・ベイエリア」は、職場から家庭に戻ると約5割の人達が英語以外の言語で会話をするというほど、いろいろな国籍の人々が集まっており、米国の中でも特徴のあるエリアである。

シリコンバレー地区の人種構成をみると、白人 36%、アジア系 31%、ヒスパニックおよびラテン系 26.5%となっている(図1参照)。ある日系企業の話では、日本には決してない環境がここシリコンバレーにはあり、それ故に新しい意見やアイデア、発想が生まれてくる可能性が大きいという。
つまり、ここでテストマーケティングやリサーチを行うことで、様々な出身国の人たちの意見を一度に吸い上げることが可能となり、世界の市場を意識した製品開発、ブランディングを進めることができるということである。加えて、日本の中で日本語で展開していたサービスを単に英訳するのではなく、はじめから英語でのサービス提供となるため、英語圏のユーザーに馴染み易いデザインや表現になることが期待できる。米国市場だけでなく、欧州や豪州など世界の英語圏をターゲットに素早くビジネス展開することができるのも、シリコンバレーを起点とする大きなメリットではないだろうか。

4.現地・現物を見て感じること

インターネットで様々な情報がどこにいても手に入る時代ではあるが、今回の見本市への参加を通して、やはり文字や映像だけの情報では伝わらないことも多くあることを実感した。日本から米国を視察した方々と話をすると、実際に訪問して五感で感じることの重要性を認識させられる。街を歩く人々、街の雰囲気、現地の方と直接話をすることで感じるものなど、全てが貴重な情報だとのことである。
あわせて、米国に駐在していて強く感じるのは、日本という市場は非常に特殊であり、グローバルスタンダードではないということである。その一方で、日本のサービスや製品の質が非常に高いことは世界中で認められているということも事実だ。つまり、「品質が良い=海外で受け入れられる」と単純にはならないのが海外展開の難しいところなのである。

今回は、CES で注目を集めた「モノのインターネット」という切り口で米国展開についてレポートしたが、海外展開についての考え方、手法は様々であろう。しかし、米国市場への参入を視野に入れておられる方には、自社の製品やサービスが世界で受け入れられるかどうか、マーケティングをどのように進めていくべきか、まずは米国に実際に足を運んで、ご自身の五感をフルに使って確認することをお奨めしたい。そして、その先には大きな可能性を秘めた世界の市場が待ち受けている。

[脚注]

  1. モノのインターネット:Internet of Things(IoT)とも言われている。コンピュータ等の通信機器だけ
    でなく、あらゆるモノが通信機能を持ちインターネットに接続、相互に通信することで、自動認識や自動制御、遠隔計測などができるようになる。
  2. 全米家電協会が主催する世界最大規模の家電見本市。毎年1月に米ネバダ州ラスベガスで開催。過去にはビデオカメラや CD プレイヤーが世界で初めて公開された。
  3. 新しいビジネスを始めた会社で、既存のマーケットを破壊し成長を続けていくことができる会社のこと。スモールビジネス(中小企業)とは区別されている。
  4. 通常の紙に印刷するプリンターに対して、三次元のデータを元に三次元のオブジェクト(物体)を造形する機器。金型や大型の装置を使わずに試作品を製作することができるようになる。これまで外注していた試作品を、自社で短時間、低コストで製作することも可能になってくる。