サンフランシスコ事務所 金堀宏宣 (PDF File)
ITを活用した様々な取組みやサービスが、我々の生活をより便利かつ効率的にするツールとして提供されている。特にビッグデータ[1]や「モノのインターネット」[2]などを活用したサービスの可能性は無限と言っても過言ではなく、市場は今後、世界規模でますます拡大していくと予測されている。
また、これまで情報技術とは無縁と考えられていた分野における課題解決や、行政の課題解決にも利用されてくるであろう。本稿では米国における先進的な取組みを紹介する。

1. はじめに

アップル社が、ウェアラブルコンピュータの第一弾として去る9月に腕時計端末を発表したのは記憶に新しい。ウェアラブルコンピュータとは、身に着けている間に多くのデータを収集・解析し、様々な情報を提供してくれる次世代コンピュータのことである。今夏の全米オープンテニスの試合でも、ボールパーソンが、心拍数や呼吸、消費カロリーなどの数値を計測する「スマート・シャツ」を試用していたことで話題を呼んだ。コンピュータが様々な形で日常生活に入ってくると、モバイルデバイス、モバイルアプリ、センサーなどから膨大なデータが収集されるようになる。これらのデータはそのままでは単なるデータに過ぎないが、収集・加工・分析方法によっては、大きな価値を有するものに生まれ変わる可能性を秘めている。
図1:ネットに接続されるデバイス数の予想値(出典:CISCO) ※ 2012年は87億、2020年に約500億まで増えると予想される
図1:ネットに接続されるデバイス数の予想値(出典:CISCO)※ 2012年は87億、2020年に約500億まで増えると予想される
シリコンバレーでは、ビッグデータや「モノのインターネット(IoT)」という言葉を耳にしない日がないほど、この分野における新技術・新製品の動向に対する注目度は高い。IDC[3]によれば、IoTの市場は2013年の1.3兆ドル(約150兆円)から、毎年平均13%ずつ拡大し、2020年には3.1兆ドル(約357兆円)まで拡大すると予測されている。また、インターネットに接続されるデバイスの数は、2020年までに500億台にもなるとも言われている(図1参照)。

2.情報技術の活用について

図2:IoT のイメージ図(1)ビッグデータ、IoT
情報技術はすでに我々の生活にとって欠かせないものとなっているが、製造業、交通、医療、教育、エネルギー分野など様々な分野で、これまで以上に活用される可能性を持っている。例えば、ウェアラブルコンピュータでは、各個人のデータをリアルタイムで収集して家庭医[4]と共有したり、スポーツ選手であればトレーナーと共有したりするなど、健康管理ツールとして使うこともできる。交通分野では、飛行機を例に挙げれば、エンジンやその他の機器・機材の状況について、センサーが感知したデータを飛行中に目的地の整備員が受信し、空港に着陸する前に、機器や機材の詳細なデータを確認することが可能となる。これにより、着陸してから次のフライトまでの整備時間を短縮できるだけでなく、各部品の点検整備についても異常が発生する前にデータを基にしたメンテナンスができるようになるため、これまで以上に効率的、かつ安全な運行が期待できる。

10 年前にはスマートフォンのアプリ開発が現在のように拡大するとは誰も想像していなかったように、現時点では考えられていない情報技術を活用したサービスや製品が、今後数年のうちに我々の生活を劇的に変えていくのではないだろうか(図2参照)。

図3:Challengec.gov サイト内のコンテスト画面(2)連邦政府の取組み
ビッグデータやIoT など情報技術が及ぶ範囲は無限にあり、既存のシステムや制度の変革について想像すると様々なことが考えられる。この日進月歩で進化する技術を行政の取組みにもいち早く取り入れていくことができないだろうか。ここではその一例として、米連邦政府が立ち上げたプラットフォームについて紹介したい。

米連邦政府は、2010 年から「Challenge.gov」というウェブサイトを運営しており、社会的な課題等を解決するためのコンテストが行われている(図3参照)。採用されたアイデアには賞金が与えられ、実現可能なアイデアには予算が投入されることもある。このプラットフォームには連邦政府の65 の機関が投稿できるようになっており、2010 年から2013 年までの間に58 の機関から288件のコンテストが実施されている。例えば連邦厚生省は、ヘルスケア分野で企業や大学等が開発した情報技術の導入を進めるためのコンテストを実施しており、賞金総額は30 万ドル(約3,450万円)と高額である。

これまで解決困難であった課題に対して、情報技術の活用を促すようなコンテストの内容になっている。他にも、NASA や司法省、国防省などもコンテストを実施しているが、内容は情報技術に関するものだけではなく、省エネルギーや農業、PR 動画制作など多岐に渡っている。

3.行政で活躍する助っ人ITエンジニア

図4:制作されたアプリケーションの紹介サンフランシスコを拠点に活動を広げている非営利団体の「Code forAmerica」は、行政が抱える様々な課題を解決するために、優秀なIT エンジニアやデザイナーを送り込み、行政と一緒に課題解決に向けた活動を行っている。同団体は、サンフランシスコ市のほか、ニューヨーク市、カンザス市、ラスベガス市など全米で10 の都市と連携をしており、連携している都市以外においても、サンフランシスコ市の隣のオークランド市やサンマテオ市など31 の都市で具体的な活動実績を上げている。例えばオークランド市では、公文書・情報の公開リクエストに対処するためのソフトウェアを制作し、市役所職員の負担を軽減すると同時に、市民側のストレスも解消できたとの報告がされている。ほかにも、各自治体の課題を解決するために、昨年だけでも30 のアプリケーションが制作された(図4参照)。

もちろん、行政の課題に対してIT エンジニアがアプリケーションを制作することで全て解決できるというものではない。しかし、これまで全く異業種で仕事をしてきたエンジニアの新しい目線で課題を解決していく過程が大事であると考えられている。行政職員とエンジニア、市民が共通の課題に対峙し、その解決のために意見を交わし最適な解決策を見出していくことにより、より良い社会づくりができるようになる。
それだけでなく、この活動に参加した市民やエンジニアは、これまでの政府からサービスを受ける顧客という意識ではなく、主体的に政府を良くしていこうという意識が芽生えるという効果もあったそうだ。

4.地域の特性を活かした取組みに

上記のような取組みを、仕組みや環境が違う日本にそのまま持ち込むのは難しいだろう。そもそも米国、特にサンフランシスコ、ベイエリアは、日本に比べると雇用の流動性が高いため、IT エンジニアの多くは、1年間だけ行政機関に派遣されて働き、その後あらためて別の職業に就くことにほとんど抵抗がないのだろう。日本で同様の取組みを実施するには課題もあるが、例えば、理工系の学生が多いという福岡の特長を活かし、エンジニアを目指す学生達が、地域の課題を行政や市民と一緒になって解決していくような取組みも考えられる。社会経験の乏しい学生がどこまで実績を出せるのかという疑問もあるかと思うが、経験は少なくとも、行政職員では考えつかないような多くの新しい発想が得られる可能性は充分にある。また、学生にとっても、地域の課題解決を通して行政や地域活動に触れることは、大きな学びになるのではないだろうか。

当事務所としては、本稿で紹介した米国における行政等の活動について、今後も様々な角度から情報収集し、現地の行政機関との意見交換などを通して、実行可能性のある地方行政の取組みとして提案していきたい。
※ 為替レート 1ドル100 円で換算

[脚注]

  1. ビッグデータ:従来のデータベース管理システムでは、記録や保管、分析・解析が困難なほど大きなデータ群のこと。
  2. モノのインターネット:Internet of Things(IoT)とも言われている。コンピュータ等の通信機器だけでなく、あらゆる物が通信機能を持ちインターネットに接続、相互に通信することで、自動認識や自動制御、遠隔計測などができるようになる。
  3. IDC:米マサチューセッツ州に本社があるIT 専門の調査会社
  4. 内科、小児科、皮膚科、婦人科など各臓器に分かれた診療ではなく、患者の性別、年齢、臓器にとらわれない、広く総合的な診療を一人の医師が行うもので、日本の「地域医療」に近い。