サンフランシスコ事務所 金堀宏宣 (PDF File)
燃料電池自動車の普及について、カリフォルニア州では州政府と自動車メーカー、エネルギー関連会社などが連携した取組みを進めている。州政府による厳しい環境規制が先導的に取り入れられ、これが無公害車の導入を後押しする形にもなっている。本稿では、インフラ面、制度面、コスト面などで課題が残る燃料電池自動車の普及について、カリフォルニア州における取組みを紹介する。
写真1:CESに出展された燃料電池自動車(出典:Toyota Motor

1. はじめに

「究極のエコカー」と言われる燃料電池自動車(FCV)が、今年度中に世界に先駆けて日本で発売され、来年夏頃には欧米での販売も予定されている。米国では、今年1月に米国最大の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」で、トヨタ自動車が開発したFCV(写真1)のお披露目があった。

一回の水素充填による航続距離は約700km、水素充填の時間は3分程度と一般のガソリン車と同等であるが、水素ステーションの整備、補助金など政府による支援策が普及のカギを握る。現在米国で大きく普及台数を伸ばしているハイブリッド車やプラグインハイブリッド車に比べると、インフラ面、制度面、コスト面などクリアすべき課題は多いが、自動車の動力源として新たに水素が加わることで、供給源の多様化、環境負荷の低減など我々の社会に与える影響は計り知れない。

2.連邦政府より厳しい環境規制

米国の中でも特に環境規制が厳しいカリフォルニア州では、カリフォルニア大気資源局(CARB)[1]が、無公害車(ZEV)[2]規制により一定以上の台数を販売する自動車メーカー[3]に対して、2015年までに、7台に1台以上の割合でZEVを販売することを義務づけている。実際には、この規制値どおりにZEVを導入することは難しいため、ハイブリッド車や天然ガス車などの販売台数もZEVに準じて考慮されるようになっている。
カリフォルニア州におけるFCVの普及台数の予測
カリフォルニア州におけるFCVの普及台数の予測(出典:CARB)
規制値をクリアできなかった場合、CARBに罰金を支払うか、または他社から環境クレジットを購入することになる。電気自動車(EV)のテスラを販売するテスラモーターズ[4]は、規制対象の自動車メーカーには入っていないが、販売台数に応じて環境クレジットを獲得している。CARBでは、この環境クレジットの売買を認めており、同社はこのクレジットを売却し収益を得ている。

このように、規制をクリアできなかった場合のペナルティーは、会社の収益に影響を与えることになり、否が応でも自動車メーカーはこの厳しい規制に対応しなければならない。ある意味、この規制は自動車メーカーの環境技術開発を後押しすることにもつながっている。一方で、環境意識の高い消費者の選択肢を増やし、新たな市場を創出することにもなっている。

ZEVのうちFCVの普及台数については、CARBが今年6月に発表したレポートによると、2017年に6,650台、2020年に18,465台と予測されている(図1)。FCVの普及台数の増加に合わせて、利用者が安全面、利便性の面でストレスを感じること無く利用できる水素ステーションの整備が不可欠であることは言うまでもない。

3.水素ステーションの整備

カリフォルニア州では、「カリフォルニア燃料電池パートナーシップ」[5]が、水素ステーション整備のロードマップを策定しており、予測されるFCVの普及台数、水素ステーションのコスト、マーケット情報などをベースとして、必要とされる水素ステーションの数が試算されてきた。

前述のCARB発表のレポートによると、2014年8月現在、同州内には9カ所の水素ステーションが設置されており、その殆どが、南カリフォルニアに集中している。
また、2014年末までには23カ所にまで増え、FCVの販売開始が予定されている2015年の初めまでには、28カ所の水素ステーションが増設され、合計51カ所とする計画が立てられている(図2)。この28カ所の水素ステーション増設に対して、カリフォルニア州エネルギー委員会は、約50.3億円(約4,660万ドル)の資金供与を承認しており、同州の主要地域に水素ステーションが整備される予定である。

図2:FCV普及に必要な水素ステーションの数(出典:CARB)
図2:FCV 普及に必要な水素ステーションの数(出典:CARB)
写真2:カリフォルニア州トーランス市の水素ステーション (出典:CaFCP)さらに、昨年9月のカリフォルニア州議会では、水素ステーションの数が100カ所に達するまで毎年20億円を予算化することが可決されるなど、同州におけるFCV普及に向けた動きは活発である。

日本でも自動車メーカーが独自に水素ステーションの整備に乗り出しているが、ここカリフォルニア州でも、エネルギー関連の企業だけにとどまらず、トヨタ自動車が米国カリフォルニアのベンチャー「ファーストエレメント・フューエル社」を通して米国でのインフラ整備を展開している。同社は、カリフォルニア州エネルギー委員会から29.8億円(約2,760万ドル)の助成を受け、同州内に19カ所の水素ステーションを2015年秋までに整備することを計画している。

4.カリフォルニア州との連携

本県では、2004年に産学官からなる「福岡水素エネルギー戦略会議」を設立し、FCV普及に向けた取組みを進めている。水素エネルギー分野で先進的な地域である本県とカリフォルニア州が連携を深めることで、水素エネルギー社会の実現がより近づくことが期待される。
また、去る9月8日には、日本政府とカリフォルニア州政府との間で、気候変動等に関する覚書が取り交わされた。覚書には、気候変動、再生可能エネルギー、ZEVをはじめとする自動車などが具体的な協力分野として挙げられており、今後カリフォルニア州と日本との協力関係が一層強化されることとなった。

本県には、自動車産業をはじめとする様々な製造業の集積があり、研究開発分野では、水素エネルギー製品研究試験センターや次世代燃料電池産学連携研究センターなど、先進的な研究、開発を行う環境が整っている。カリフォルニア州立大学[6]、ローレンス国立研究所[7]等の優れた研究機関やエネルギー関連の企業なども集積する同州との連携を積極的に進めていくことで、FCVの普及に向けて、これまでに無かった新しいアイデアや発想が生まれてくるのではないだろうか。

当事務所では、引き続きカリフォルニア州や米国での取組みをしっかりフォローし、本県の水素戦略を推し進めていきたい。
※ 為替レート 1ドル=108円

[脚注]

  1. California Air Resources Board(CARB)。カリフォルニア州の大気汚染を防止する行政機関。
  2. Zero Emission Vehicleの略。排気ガスを一切出さないEVやFCVのこと。
  3. 該当する自動車メーカーは、クライスラー、GM、フォード、トヨタ、日産、ホンダ。
  4. バッテリー電気自動車の開発、生産及び販売を行う自動車メーカー。本社所在地は、米国カリフォルニア州パロアルト市。
  5. California Fuel Cell Partnership(CaFCP):自動車メーカー、エネルギー供給会社、政府機関、燃料電池関連企業などで構成された組織。各機関が連携して、燃料電池自動車の普及、商用化のための支援を行っている。
  6. 州内に23の大学を持ち、約45万人の学生、45,000人の教員、職員を擁する米国でも最大級の大学群。
  7. 米国エネルギー省所管の研究所。州内にはローレンス・バークレイ研究所、ローレンス・リバモア研究所があり、環境、エネルギー分野など様々な研究が行われている。