サンフランシスコ事務所 金堀宏宣 (PDF File)
「ものづくり回帰」を推進する米国の狙いは、これまでに海外へ流出した雇用と投資を呼び戻すことと、製造業を核としたイノベーションによる新たな産業創出である。製造業が米国内に回帰する要因としては、新興国の人件費高騰等による製造コスト増、米国内での燃料費低下などが挙げられる。中でも注目したいのは、近年、ますます高性能化、低価格化が進んでいる3Dプリンタ等を活用して、「ものづくり」を国内回帰させ、「第3の産業革命[1]」に繋げていこうという新しい動きである。この動きをうまく取り込み、日本の製造業における新しい市場創出のチャンスにできないだろうか。

1.製造業による投資・雇用増を目指す米国

昨年2月、オバマ大統領の一般教書演説の中で、米国経済の成長を支える原動力として、環境・エネルギー分野、教育分野、インフラ整備と並んで、重点政策の分野に挙げられたのが製造業であった。一旦は中国、東南アジア、メキシコなどの新興国へ移った製造拠点、これを再び米国へ戻すというものである。
図1:全雇用者数に占める製造業雇用数の割合(%)(出所:米国労働省労働統計局)
図1:全雇用者数に占める製造業雇用数の割合(%)(出所:米国労働省労働統計局)
米国労働省労働統計局のデータによると、米国の製造業雇用者数は、1970 年代にピークを迎え、80 年頃までは景気動向で上下するが、80 年以降は減少していく。80 年に約2,190万人であった雇用者数は、2012 年には1,460 万人となり700 万人以上減少している。また、全雇用者数に占める製造業雇用者数の割合でみると、1980年に22.1%、2000 年に14.4%、2012年には0.3%までに落ち込んでいる。(図1)

日本の場合は、米国を追いかけるように、バブル経済が崩壊した90 年代前半から減少に転じており、90 年の24.3%から2012 年には16.6%となっている。このグラフをみると、米国ほどではないが、日本においても「ものづくり」に従事する人の減少が深刻であることが改めてよく分かる。

米国では、足下で進行している雇用の減少だけでなく、将来予測される製造業およびイノベーションの分野での新興国の著しい台頭、相対的な米国の競争力低下も大きな懸念の一つとなっている。

2.なぜいま米国で「ものづくり」なのか?

米国への「ものづくり」の回帰は、新興国における人件費上昇や生産工程の自動化による製造コスト格差の縮小、米国のシェール革命による燃料価格の低下などにより、米国外で製造するメリットが相対的に薄れてきていることが要因として挙げられる。
オバマ大統領は、2016 年までの製造業雇用100 万人創出を公約し、法人税率引き下げや工場閉鎖地域への投資誘致支援などに向けて動いている。こうした政策は海外に流出した雇用を米国に取り戻し、海外への「ものづくり」ノウハウの流出を防ぐことにもつながると考えられる。
米国が「ものづくり」を回帰させるもう一つの狙いは、「ものづくり」を「第3の産業革命」に結びつけようとするものである。2 月4 日、ホワイトハウスのブログで2014 年後半にメーカーフェアをホワイトハウスが主催することが発表された。国を挙げて「ものづくり」を支援し、産学官が協力する中で、メーカーの動きを活発化させ、起業の起爆剤にもしていこうとする姿勢を前面に打ち出している。

このブログでは、メーカーフェア開催案内と併せて、「ものづくり」を推進するために、ホワイトハウスが総力を挙げてサポートすることが宣言されている。より多くの学生や企業を対象に、「ものづくり」に必要なツールやスペースの提供、助言者・指導者へのアクセスを容易にすること等、先ずは地域に「ものづくり」を浸透させることに焦点を当て、企業や学校、自治体などに以下のような取組みを促している。

企業:「ものづくり」のためのスペース、放課後の「ものづくり」のプログラム等に従業員を派遣することや、テナントの提供など。
大学:学生や地域社会に対して「ものづくり」のためのスペースを設ける。地域レベルでのハードウェアやソフトウェアの研究・開発を支援する。
自治体:雇用を創出するために、起業家を支援する地域をつくる。または、「ものづくり」のためのスペースへのアクセスを容易にする。学校、図書館、博物館や地域の会合などで「ものづくり」教育を行う機会を持つ。
財団:「ものづくり」のための補助金、助成金を提供する。

3.「ものづくり」復権の鍵を握る3Dプリンタ

サンノゼ市の TechShop(写真上)と工房にある3Dプリンタ(写真下)センサーの発達、3Dプリンタの高性能化、低価格化により、これまで企業が作っていた物を個人が簡単に作れる時代が来ることが予想される。3Dプリンタの普及に伴い、「ものづくり」の分野でもイノベーション、起業の可能性が拡大していくのは間違いない。
3Dプリンタは、「ものづくり」のあらゆる加工をこなす工作機械ではない。通常、図面にあるものを実際に目で見て、触ってみるため(デザイン検証)に試作品を外注する場合があるが、この試作品の外注行程では数週間かかるところ、3Dプリンタを活用すると数十時間でできるのである。この時間短縮を大きなメリットとして3Dプリンタが使われるようになった。その後、素材の多様化、寸法精度の向上により用途が拡大している。最近では、性能向上により、射出成形の金型製作もできるものまで出ている。

米国では、3Dプリンタが「ものづくり」復権の鍵になり、製造業のイノベーションが農業や医療などの様々な産業に波及するとの考えの下、オバマ大統領は、10 億ドルを投資して地方の製造ハブとなる製造イノベーション研究所(IMI)[2]」を全国に最大15 カ所設置する計画であり、同時に、地方のIMI から構成される全米製造イノベーションセンター[3]」の構築も打ち出し、製造業におけるイノベーションを全面的にサポートする体制を整えている。

また、「ものづくり」からイノベーションを起こすため、地域の学生や子供達への「ものづくり」に対する意識の醸成や教育など草の根レベルからのアプローチも徹底している。オバマ大統領は、1,000 校の学校教育機関に3Dプリンタを設置し、教育分野にも取り入れることを発表している。

老若男女を問わず多くの人がものづくりに触れる機会を増やすことで、新たなイノベーションの可能性を拡げようとしている点に注目すると、そこには、3Dプリンタをはじめ、個人がものづくりを簡単にできるツールがあることが必要になる。前述のブログの中で、企業の取組み事例として自動車メーカーのフォードが紹介されている。誰でも参加できる会員制の「ものづくり」工房として米国で展開しているTech Shop[4]」とフォードが連携し、デトロイトにTechShop を開設した。同社からは2,000 人の社員がこの工房を利用し、自分たちのアイデアを試せる場所になり、新しいアイデアや発想が生まれ、社内の特許出願プログラムへ提出されたアイデアの数が1年間で50%増えた(同社サイトより)。

4.日本国内の製造業への影響

米国の「ものづくり回帰」への動き、3Dプリンタ等によるイノベーションの可能性を捉えた米国政府の取組などについて触れてきたが、このような動きが日本または福岡の製造業に与える影響はどのようなものが考えられるだろうか。3Dプリンタが即座に日本国内の製造業に絶大なる影響を及ぼすようなことは考えにくいが、試作品のリードタイム短縮による生産コストの削減や、多品種少量生産が効率的に行えるようになり、中小企業の生産性の向上、ひいては中小企業の研究開発力の強化に寄与してくるものになればと期待するところである。

また、「ものづくり」の歴史があり、高い技術がある県内企業にとっては、3Dプリンタに関わる素材、工作機械の分野で新たなビジネスを創出できる可能性もあるのではないか。3Dプリンタを活用した独自の開発など可能性は広がっている。

5.まとめ

日本ではグローバル競争の下、今後も海外の市場を求めて国内製造業の海外進出が拡大していくであろう。一方で、米国の「ものづくり回帰」に向けたハード面、ソフト面での政府、大学、産業界、地域社会の総合的な取組みを参考に、国内においても「ものづくり」の分野で新しい市場を創出するための取組みも必要ではないだろうか。

[脚注]

  1. 様々な定義があるが、ここでは18 世紀の機械工業発展に伴う産業革命、20 世紀のコンピュータの発展
    に伴うデジタル革命に続く、製造とデジタルの融合による新たな動きを指す。
  2. IMI:Institute for Manufacturing Innovation
  3. NNMI:National Network for Manufacturing Innovation
  4. 会員制のものづくり工房で、3Dプリンタ、レーザーカッターから木工具、ミシンまで備えている。米国に7カ所設置され、更に3カ所が開設予定。サンフランシスコベイエリアには、メンロパーク市、サンノゼ市、サンフランシスコ市に工房がある。