サンフランシスコ事務所 金堀宏宣 (PDF File)
米国では、教育分野におけるIT 活用が日本よりも進んでおり、大学、高校、小中学校等の教育機関、企業などが様々な取組みを行っている。
米国の有名大学が展開する「MOOC(ムーク)[1]」と呼ばれるオンライン型の大規模講義は日本でもその動向が注目されており、小中学校においてもダブレット端末や教育ソフトを使った教育が一般的に行われている。
米国で教育分野におけるIT 導入が進む背景には、ネットワークに接続できる環境さえ整っていれば、どの端末からでもサービスを受けられるクラウドコンピューティング[2]の活用が進んでいるからである。
クラウドコンピューティングを活用しながら、地域のIT 資源を最大限に取り込み、教育機関と企業、行政が一体となった横断的な取組みを行うことができれば、これまでにない魅力的な教育環境を提供することができるのではないか。

1.オンライン型の大規模講義

500以上の講義が選べるコーセラのサイト (出所:同社サイト)米国では、教育分野におけるIT 活用の面で、大学等の教育機関、企業などが様々な取組みを行っている。その代表的な例として、米国の有名大学においては、「MOOC(ムーク)」と呼ばれるオンライン型の大規模講義が注目を集めている。

「ムーク」は、世界中どこからでも大学の講義をオンラインで、かつ無料で受けられるというのが最大の特長である。その代表格として、スタンフォード大学のコンピューターサイエンス分野の教授によって立ち上げられたベンチャー企業のCoursera(コーセラ)や、米グーグルの自動走行車の開発者でもあるセバスティアン・スラン氏が中心となって設立されたベンチャー企業のUdacity(ユーダシティ)、マサチューセッツ工科大学とハーバード大学を中心に20 を超える世界トップクラスの大学で構成される非営利組織によって運営されているedX(エデックス)などのオンライン講座が挙げられる。「ムーク」の利用状況について、コーセラを例に見てみると、2012 年4月の立ち上げ以降、世界中から80 校を超える大学がコーセラのサイトを利用して授業を配信している。インターネット環境と電子端末があれば、誰でもどこでも無料で大学の講義が受講できるということもあり、登録学生数は、僅か1 年半で延べ1,700 万人に達し、学生の出身国は190 カ国となるなど、凄まじい勢いで拡大している(2013 年9 月現在)。

また、モンゴル在住の高校生が、「ムーク」の利用をきっかけに、憧れのマサチューセッツ工科大学に授業料免除の優遇を受けて進学した事例がある。これは、モンゴル在住の高校生が、同大の講義を「ムーク」を通して受講し、驚くほど優秀な成績を残したことから実現したものである。大学側から見ると、「ムーク」により、世界中から優秀な学生を発掘することが可能になったともいえる。

さらに「ムーク」の利用により、オンライン上で同じ分野に興味を持つ学習者が集うコミュニティが形成され、その中で様々な議論ができるようになり、利用者の学習意欲が向上するといったメリットも特徴の一つとなっている。

一方で、実際に大学に通いながら受講する講義と異なり、オンラインで簡単に受講登録ができることから、途中で受講を断念する受講者が多く、オンライン受講者の理解度が相対的に低くなるなどの課題もある。そもそも大学の単位として認められる仕組みが整っていない等の根本的な問題もあるが、教育とITが掛け合わされることで、新しい学びの場が提供され、これまでの大学のあり方を大きく変える新たな潮流が生まれている。

2.情報技術の活用について

米国の公立の小中学校では、地域によって普及状況にばらつきはあるものの、タブレット端末を使った授業が行われている。また、児童の自宅学習用に教育用アプリケーションが使用され、先生と親はサイトに登録するだけで、子供の学習時間やその学習による到達レベルなどを簡単に時系列で確認することができるようになっている。勿論、日本の学校と同じように紙媒体による宿題もあるが、電子端末を使った教育が、学校での授業および家庭での宿題の一部として組み込まれているのである。
図 1:タブレット型端末の普及率(米国 18 歳以上)出所:Pew research center’s Internet & American life project
図1:タブレット型端末の普及率(米国18歳以上)出所:Pew research center’s Internet & American life project
先に述べたように、普及には地域差があるものの、今年6 月には米アップルがロサンゼルスの公立学校から約29 億円分のタブレット端末受注に成功したと報じられるなど、米国の学校では、授業に使用するタブレット型端末の普及が急速に進んでいる。参考までに、米国における18 才以上のタブレット型端末の普及率は、2013 年5 月現在で34%となっている(図1)。
一方、日本の世帯普及率は、米国の半分にも達していないが、2012 年末に15.3%となり、前年末の8.5%から大きく伸びている(総務省調査)。日本でも米国同様に今後もタブレット端末の普及が進んでいくものと見込まれ、近い将来、日本の小中学校の教育現場でも、ノートや教科書に加えて、タブレット端末が導入される日が来るものと思われる。

3.クラウドコンピューティングがIT 活用を加速

写真1:クラウドコンピューティングエキスポ会場先に紹介したオンライン型大規模講義や教育現場でのタブレット端末導入のように、米国の教育分野においてIT 活用が進んでいる要因の一つとして、クラウドコンピューティングの利用が進んでいることが挙げられる。クラウドコンピューティグの発達により、これまで手元のコンピューターの中に保存されていたデータは、完全に端末から離れたところで維持管理されるようになり、必要な時に必要なソフトウェアやストレージなどのサービスを利用することができるようになった。そのため、様々なサービスを効率的に利用できるようになり、かつ、初期費用や保守管理費が格段に安くなることにより、コストの面でもメリットを享受できるようになったことが、教育現場等でのIT 活用を促進している。

11 月にシリコンバレーで開催されたクラウドコンピューティグエキスポでは、出展企業が約70 社にも及び、会場は熱気に溢れていた(写真1)。既に日本市場に展開している米ベンチャー企業に話を聞いたところ、「クラウドコンピューティング導入の最大の障害となっているのは、セキュリティとデータ保護である。そのため、全く新しいセキュリティを組み込んだサービスを武器に、日本でも顧客開拓を進めていく」と意気込んでいた。日本において、これからクラウドコンピューティングを活用した教育サービスを取り入れようとする企業や学校においては、セキュリティの問題は慎重に議論されるべきものであり、簡単に導入を決断できるものではないと思われるが、これからますます教育分野におけるクラウドコンピューティング導入の流れが止まることはないと思われる。

4.クラウドで教育ビジネスを拡大

教育現場へのIT 導入について、特に小・中学校、高校では、児童・生徒の情報端末への依存、有害サイトへのアクセス、学習効果に対する不安、教員へのIT教育など解決すべき課題はあるものの、IT 導入により音声や映像などを交えた臨場感のある授業が実現できるなど、その効果も認められているところである。

また、ビジネスの面から見ると、教育関連サービスをクラウドコンピューティングで提供することにより、サービスを提供する企業側にとっては、開発コストを抑えることができ、インターネットを介して顧客を開拓することも可能となる。一方、サービスを利用する学校等にとっては、クラウドコンピューティングの活用により導入コストが軽減されるとともに、保守管理の手間もかからないため、比較的容易に教育現場にIT を導入することができるといったメリットがある。

もし仮に、地元のIT 企業が開発したサービスを、その地域の学校に試験的に使ってもらい、企業と学校が連携し、より良いサービスに作り上げていくという取組みを進めることができれば、学校側は教育現場のニーズにマッチした最先端のIT 技術を教育現場に取り入れることができ、他方、企業側は、教育現場の意見を聞きながらニーズにあったサービス開発を進めることができるため、双方にとってのメリットは大きくなる。

県内においても、クラウドコンピューティングを活用しながら、地域のIT 資源を最大限に取り込み、教育機関と企業、行政が一体となった横断的な取組みを行うことができれば、これまでにない魅力的な教育環境を提供することができるものと考えられる。

[脚注]

  1. Massively Online Open Courses の略で、インターネットを通じた公開オンライン講座のこと。
  2. ネットワーク上に存在するサーバーから提供される情報処理サービス。主にインターネットを介して、データの格納やアプリケーションなどのサービスが利用できる。利用者はネットワークに繋がれた環境があれば、どの端末からでもサービスを利用できる。