サンフランシスコ事務所 金堀宏宣 (PDF File)
米国の中でも特にカリフォルニア州は、積極的なエネルギー・環境政策を打ち出しており、2020年までに全エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合を33%とする目標を掲げ、エネルギー・環境分野で厳しい規制を導入している。

大手IT企業の中には、使用するエネルギー全てを再生可能エネルギーで賄うというより高い目標を設定するだけでなく、エネルギー事業そのものに参入するところも出てきている。規制の強化や環境の変化を新しい技術やビジネスを創出するチャンスとして捉え、ベンチャー企業とのコラボレーションなどに強かに取り組んでいる米国企業に学ぶべき点があるのではないだろうか。

1. はじめに

米国では、2009年のオバマ大統領の就任直後から、エネルギー・環境分野の取組みを謳った「グリーン・ニューディール政策」が注目された。一定の割合で再生可能エネルギーを使用することを義務づけるなど、明確な数値目標が提示され、特にカリフォルニア州では積極的な取組みが実行されてきた。

その中身は、①再生可能エネルギーの導入と利用率の向上、②スマートグリッドの導入による送配電網の近代化、③エネルギー効率の向上、④在来型交通機関の改修や高速鉄道新設による排出ガスの削減など多岐に渡る。

2.カリフォルニア州における取組み

過去40年間の一人あたり年間消費電力量について、カリフォルニア州と米国全体を比べると、図1のとおり、米国全体ではほぼ2倍に増えている 一方で、カリフォルニア州では横ばいで推移しているのが分かる。
図1:米国の一人あたりの年間消費電力量の推移
図1:米国の一人あたりの年間消費電力量の推移 (出典:US Energy Information Administration)
カリフォルニア州では、カリフォルニアエネルギー委員会[1]が独自のエネルギー効率規制を導入しており、この規制をクリアしていない家庭用オーディオ機器、DVDプレイヤー、テレビなどの家電は販売できない。

カリフォルニア州は、再生可能エネルギーが全エネルギーに占める割合として、2010年〜2013年までに20%、2020年までに3%、と米国で最も意欲的な数値目標を掲げている。2012年の時点で19.6%に達しており、2013年に目標の20%を超えるのは確実であろう。
その他、2025年までに電気自動車またはプラグインハイブリッド車を150万台導入または15.4%の割合まで引き上げるという政策目標を打ち出している。

(1)電力会社の取組み(スマートメーター)
シリコンバレーに本社を置く大手IT企業のアップルやグーグルは、将来的に自社で使用するエネルギーに占める再生可能エネルギーの比率を100%にすることを目標としている。アップルでは、全世界の自社施設における再生可能エネルギーの使用比率が、2年前の35%から2倍以上の75%に達していることに加え、本社ビルでは使用電力の100%が再生可能エネルギーで賄われている。

アップルやグーグルなどの世界のトップ企業は、こうした取組みを通してブランドイメージを高めていくだけでなく、再生可能エネルギー分野を新たなビジネスチャンスとして捉え、積極的に投資をしているのである。例えばグーグルでは、1.7MW規模の太陽光発電設備を導入するだけでなく、バイオガスを活用した新しい燃料電池システムを他社に先駆けて導入するなど、世界のエネルギー問題について、電力会社任せにすることなく自社のリソースを活用し、ソリューションについて研究している。さらに、電力会社に対して再生可能エネルギーの割合を増やすように求める活動まで実施している。

図2:PG&Eの電気料金明細書(一部抜粋) (出典:PG&Eホームページより)
図2:PG&Eの電気料金明細書(一部抜粋) (出典:PG&Eホームページより)
(2)再生可能エネルギー
次に、エネルギーを供給する側の取組みについて紹介したい。電力使用量を消費者に分かり易く知らせ、消費者の節電意識を高めていくような電力会社の取組みがある。カリフォルニア州の電力各社はスマートメーター[2]の設置を進め、同州ではほとんどの家庭や企業にスマートメーターが普及している。スマートメーターの導入を通じたスマートグリッド[3]の構築により、電力会社は、一般家庭の場合で1時間毎、商業施設の場合で15分毎にそれぞれの電力使用量を把握できるようになっており、効率的な電力需給管理が可能になっている。

また、消費者にとっては、使用電力が可視化されることにより、節電の効果が分かり易くなり、節電をより身近なものとして捉えることができ、更なる節電の取組みにつながっている。供給側と需要側の双方にメリットが生まれる仕組みが実現されている。 写真1:家庭用のスマートメーターカリフォルニア州のパシフィック・ガス電気社(PG&E)を例に挙げると、毎月の電気料金の明細と一緒に毎日の使用量がグラフで表示され、いつどのくらいの電気を使用したのかが一目で分かる。また、文字の大きさやフォントなど非常に見易く、消費者の目を惹くように工夫されている。日本では電気料金と料金体系などが細かい文字で書かれた明細を見慣れていたため、当地で初めて明細を見た時はとても見易いという印象だった。

「MyEnergy」というPG&Eの消費者向けサービスでは、インターネット上で電力使用量や電気料金を確認できるだけでなく、一般家庭の平均的な使用量と、節電対策に取り組んでいる使用量の少ない家庭のグラフが可視化されており、自宅の電力使用量との比較ができる。また、過去の電気料金の推移や、外気温の変化と電力使用量の関係が分かるグラフなど様々なデータを参照できるようになっている。さらに、節電の取組み事例を紹介するなど充実した内容となっており、「節電は環境に優しく、楽しくやるもの」というメッセージが伝わってくる。

米国では、スマートメーターの導入により、電力会社の需給管理の効率化、消費者の節電効果が見込まれるだけでなく、スマートメーターで収集された消費者の電力使用データを分析して新しいサービスに生かすなど、新たなビジネス創出が期待されている。

3.新しい交通システムの導入

自動車業界でも、「環境」というキーワードで多くの技術が開発されており、自動車に求められるものを変えていく可能性がある。燃費向上技術の追求や排出ガスのクリーン化などは当然のこととして、これまで人間の運転技術や経験に頼っていた「安全」や「環境に配慮した運転」をコンピューターで精密に制御できるようになる自動運転車の開発を進めている自動車メーカーもある。

そのような中、車社会の米国において、太陽光発電を動力源に、環境にやさしく超高速移動ができるという既存のシステムと全く異なる交通システムの構想が発表された。今年8月、シリコンバレーに本社を置く電気自動車メーカー・テスラモーターズのイーロン・マスクCEOが、サンフランシスコとロサンゼルス間の約600kmを35分で結ぶという夢のような新交通システム「HyperLoop」構想を打ち出した。技術的な脆弱性など指摘されているが、この交通システムはオープンソースによる開発が進められると言われている。
こうした新しいインフラや技術が生まれるタイミングは、その周辺分野にも新たなビジネスが生まれるタイミングでもある。米国の企業は変化からビジネスを生み出すのが非常にうまい。

4.まとめ

先日、当地の蓄電池業界の見本市に出展していた韓国の蓄電池事業会社の代表と話をする機会があったが、カリフォルニア州におけるエネルギー・環境分野での規制は、他国の感覚では考えられないほどのスピード感で進められているにもかかわらず、州内の市民や企業からは、この規制に対して大きな不満が出ていないことに驚嘆していた。このような市民や企業の意識があるからこそ、新しいビジネスが生まれる環境が整っていくのではないだろうか。

蓄電池業界も、まさにカリフォルニア州のエネルギー・環境政策のもとで、新規ビジネスが期待される分野であり、今後の技術動向・市場動向が注目される。

このように、カリフォルニア州では厳しい規制をビジネスチャンスとして捉え、新しい技術やビジネスを創出するという動きがある。米国の企業はベンチャー企業とのコラボレーションにより、自社の技術やビジネスモデルだけでは足りない部分は積極的に他社の力を取り入れている。例えば、米大手太陽電池メーカーのファーストソーラーは、太陽光発電の技術を持つベンチャー企業のテトラサン[4]を買収、自社の技術を補完し、新たな市場の開拓を目指している。

日本でも、政府は2020年代の早期に全世帯・全工場へのスマートメーター導入を目標に掲げ、電力改革を進めようとする動きがある。日本企業にとっては、米国のエネルギー・環境分野における企業動向は、新たなビジネスを展開する上で参考となる部分は少なくない。

[脚注]

  1. カリフォルニア州政府におけるエネルギー政策の最高機関。
  2. 通信機能を備えたデジタル計測による電力メーター。電力会社と需要先を結ぶことが可能となり、需要先の電力使用量の制御や家電製品をコントロールできる次世代電力量計。
  3. 電力送配電網に情報システムを統合し、リアルタイムで電力量を管理することができる等、高度で自立分散的な電力需給調整機能を持つ次世代電力送電網。
  4. 結晶シリコン系高効率太陽電池セルを低コストで製造する独自技術の開発を行う米国ベンチャー企業。