サンフランシスコ事務所 仲谷隆造 (PDF File)

1. はじめに

出典:Yelp, Inc.博多一風堂のニューヨーク店(Ippudo NY)が、2010年の全米人気トップ・レストランに選ばれた。アメリカの大手クチコミサイトのイェルプ(Yelp, Inc.)がランク付けしたもので、年間2,000件近い高評価のレビューを獲得して第1位に選出されたものである。2011年も第3位を維持し、2012年の結果が待たれるところだが、現在も入店するためには長い行列を覚悟しなければならない程の人気である。
イェルプは月間の利用者が84百万人、2006年のサービス開始以来、累積で33百万件ものレビューが掲載され(2012年9月30日現在)、アメリカでは誰もが拠り所にするクチコミサイトである。レストランガイドのミシュラン(Michelin)やザガット(Zagat)に評価されるだけでなく、福岡発の食ビジネスがアメリカで人々の自発的な書き込みを集め、無数のレストランの中で並みいる有名店を押しのけてトップに君臨していることは特筆すべきことである。

一風堂をはじめ、福岡からニューヨークに進出した「秀ちゃんラーメン」や「Hakata Tonton」等の人気店の影響もあり、「Tonkotsu Ramen」という言葉がアメリカで広まり、ニューヨークでは「Hakata」という名前が聞かれるようになった。福岡発ビジネスの海外進出を図る上で、この好機を逃してはならない。2011年2月のレポートでは、イタリア食材のマーケット「Eataly」を事例に、福岡の高品質な食をクールに、料理全体を総合的に、アメリカ経由で世界に認知させることを提案した。今回はその実践としてニューヨークで行っている活動を紹介し、他のビジネスでも共有するべきアメリカでのプロモーション活動の注意点を紹介したい。

2.ニューヨークにおける食のプロモーション

10月から12月までの3ヶ月間、ニューヨークのレストラン11店舗と、福岡から輸出している4食品を紹介する活動「Eat Hakata-style in New York City」を実施している。前述のEatalyのような旗艦店舗を常設することは容易でないが、賛同さえ得られればニューヨークで既に出店している福岡関連のレストランをグループとして紹介することは可能である。福岡発の食品を一緒に紹介することで、アメリカ市場への進出を後押しする試みである。
Eat Hakata-style in New York City
Eat Hakata-stylein New York City
Fukuoka Now(1)活動の概要
専用ウェブサイト(Hakatastyle.com)に店舗や商品のレビューを書くか、フェイスブックページ(EatHakataStyleNYC)の「いいね」ボタンを押すと抽選でTシャツが当たる。またツイッターで「#hakatastyle」をつけてつぶやくと、福岡の食品の詰め合わせが抽選で当たるという活動である。

きっかけは、昨年からニューヨークにコーディネーターを配置したことと、ニューヨークの日系情報誌から福岡の食を紹介する企画を提案されたことである。前述の一風堂、秀ちゃん、Tontonの3店舗に加え、「うどんのウエスト」のグループやその暖簾分けしたレストランなどを含めると、マンハッタンとその近郊に11店舗もの福岡にゆかりのあるレストランが確認できた。そこで、それらを紹介する地図の作成から着手した。

ちょうどTontonなどの来店客から「Hakata」とは何かという声が聞かれるようになっていたため、これらのレストランを福岡の宣伝塔として英語情報紙「フクオカ・ナウ」を毎月送付し始めた。将来的には新潟の酒のように共通ラベルを貼った販売など、より積極的な共同事業を展開したいが、まずは11店舗のスタンプラリーを、とのアイデアもあり、店舗側の負担を配慮して、人々にレビューを書いてもらうだけの情報の発信と拡散を支援する活動から手掛けたのである。

Southwestern United States 出典:Wikipedia(2)英語表現と見た目には細心の注意を
日本でもアルファベットや英語の表記は日常的に使うため、不用意に英語を使ってしまうことが多いが、アメリカでの活動では大いに注意が必要である。例えばこの活動の名称は、動きを促すような動詞(Eat)から始めることが重要なのである。英語でビジネスの表現をする時は、単に正しい英単語かどうかだけでなく、現地の感覚とマーケティングやブランディングの思考を伴わないと意図した表現にならないのである。

  1. WesternではなくSouthwestern
    ここでは福岡の食をSouth Western Japanese Cuisine(日本の西南地方の料理)と紹介している。アメリカでは健康志向を背景に、様々な味覚の多くの日本食レストランが軒を並べている。その中でも一風堂をはじめとした福岡発の日本食のグループは別格だということを、また中華料理に北京料理や広東料理があるように、日本食にも「Hakata-style」という個別のカテゴリーがあることを定着させようとするものである。敢えてWestern(西部)ではなく、Southwestern (西南部)なのは、アメリカにおけるSouthwestを意識した。アリゾナ、ニューメキシコ、コロラド、ユタを中心に、ネバダやカリフォルニアも含むことがあるが、主にスペインの影響が色濃く残る地域である。福岡は日本の中でもラーメンや明太子といった食文化を持つことから、アメリカでもスパイシーなイメージのSouthwestに重ね合わせた。日本のSoul Foodという紹介の仕方もあるのだが、これはSouthern(南部)のアフリカ系アメリカ人の料理であり、福岡の食を表現するならSouthwesternの方が相応しいのではないか。
  2. FukuokaではなくHakata
    もともと博多一風堂やHakata Tonton等で浸透し始めた「Hakata」人気にあやかるのが目的である。高級ステーキの代名詞となったKobe Beef(神戸ビーフ)のように英語の世界でHakataを定着させたい。今回紹介している4商品の企業(喜多屋、西吉田酒造、高橋商店、紅乙女酒造)の住所はいずれも博多ではないように、博多限定の活動ではない。博多=所在地ではなく、Hakataはブランド名であり、英語は使い分ければ良いのである。また以前レポートした通り、Fukuokaという英語綴りは大きな問題を抱えている。最近カナダ・モントリオールでは、空手の型「普及」に因んだ「Fukyu」というレストランが、発音すると不適切な名称だということで裁判所命令で名称変更させられた事例もある。
  3. 見た目が大事
    色も現地の人が連想するイメージを意識しなければならない。そこでイメージカラーはラーメン店で一般的な組み合わせの赤と黒にした。また福岡の食というアメリカ人にとって新しい分類をどのように表現したいかという議論を重ねた結果、屋台を象徴的に扱うことにした。11店舗には、期間中にポスター掲示を協力してもらっているのだが、中には「普通はポスター掲示を断るが、このデザインなら貼っても良い」という許しを得た店舗もある。プロモーション活動においてデザインの比重は極めて大きい。
一風堂、秀ちゃんラーメン、ピエトロ、鶴味噌(3)あげたいものよりも、まずは喜ばれるものをimage of gift of Hakata-style
食の詰め合わせの景品は、一風堂、秀ちゃんラーメン、ピエトロ、鶴味噌からの協賛を得て、アメリカでは通常買えない商品も含めて魅力の高いものとなった。

他の景品として、当初は箸など福岡/日本の物産も検討したのだが、ロゴ入りのTシャツに決定した。Tシャツはアメリカでは極めて人気が高いだけでなく、着てもらえれば宣伝効果があり(実際に着てくれる人も多い)、安価に素早く制作できるため、展示会や企業訪問などのギフトとしても定番のアイテムである。日本からの訪問者は、よく特産だからという理由でお土産にアメリカ人が使わないものを持ってきてしまうのだが、この手法はあまり効果的ではない。まずは受け手のアメリカ人が素直に喜んでくれることから始めるべきである。

(4)効果的な情報解析を
フェイスブックやツイッターなどソーシャルメディアのお陰で、情報の発信や拡散は誰もが手元で出来るようになったのだが、これらの効果は魅力的なコンテンツと豊富なネットワーク次第であり、また時間と人手をかけなければ成果はあがらない。

今回の活動では、コンテンツの面では魅力的なレストランや商品はあるものの英語情報は限られている。そしてネットワークは一から立ち上げなければならない。マスメディアを使う予算もなければ、期間は3か月限定で人手も足りていない。以上から、もともと大きな成果は期待できないのだが、少しでも効果をあげるためにツイッター情報解析サービスを活用することにした。

  1. 準備段階
    新規にツイッターのアカウントを作成したため、直接届く範囲(1次リーチ)が限られている。そこで、フォロワー(2次リーチ)の多いユーザーを狙って情報発信することにした。まずツイッターで「Ramen」、「Hakata」、「Ippudo」などのキーワードでつぶやいている人をリスト化し、ニューヨーク在住、ニューヨーク在住者に影響力が強い(フォロワーが多い)、グルメ関連で影響力が強い(フォロワーが多い)ユーザーを抽出し、その上位に直接的なコンタクトを働きかけている。
  2. 情報還元
    ツイッター情報解析サービスを活用することにより、ツイッターでつぶやいた人の年齢や性別等の属性を高い確立で推定することができる。今回の活動で各店舗や商品に関するツイートを数多く獲得できれば、それらの情報の解析結果を店舗や食品会社に還元し、どのような層の人にどのように評価されているか、アンケート結果のような情報を還元することができる。ツイッターはフェイスブックと違い、友人関係などに影響されない、より素直な声を反映しやすいことから有効な利用法だといえる。

3.最後に

以上、現在進行中の食に関する小さなプロモーション活動を例として、細かな内容を紹介したのだが、日頃、ITやモノづくりといった他の業種の企業の展示会出展等を手伝う際も、これまで記載した内容と共通する「現地の感覚をもっと取り入れるべき」ということをお伝えすることが多い。日本で考えていると、日本人というほぼ均一な相手方に囲まれているため、いざアメリカに出た時に相手方が自分とどれだけ感覚が異なるかを想定しにくいと思われる。また、そもそも日本ではアメリカのマーケットでは具体的に何が好まれるのか、細かなところまでは判断できない。そのため、アメリカに出るなら現地のパートナーが欠かせないのである。

また、この活動のきっかけをつくったのは、ニューヨークで行われた福岡つながりのネットワーキングイベントである。このような機会が新しい取り組みを生み出すことから、ロサンゼルスでも定期的な福岡つながりのネットワーキングの開催を始め、Forbs誌で全米ベスト・スパの一つにも選ばれた利楽園の山本社長をゲストに招いた。このように福岡発でアメリカで活躍しているビジネスはまだたくさんある。これらを積極的に紹介し支援していくことが、より充実した福岡のネットワークをつくり、アメリカでの福岡の認知度を上げることにもつながると考えている。