サンフランシスコ事務所 仲谷隆造 (PDF File)

1. はじめに

カリフォルニア州フリーモント市のソリンドラ社2009年に米国政府から5億ドル以上の融資保証を受けた太陽光パネル製造会社ソリンドラが2011年5 月のオバマ大統領訪問からわずか4ヶ月後に経営破綻した。ソリンドラは2005年に創業したシリコンバレーのベンチャー企業で、中国メーカーとの価格競争に勝てなかったことが破綻の原因といわれている。今月には米大統領選の共和党候補者ミット・ロムニー氏がこの工場の前に立ってオバマ政権の政策を非難する等、引き続き大きな波紋を呼んでいる出来事だ。

シリコンバレーではソーシャルメディア、モバイル、クラウドコンピューティング等が好調で、フェイスブック、グーグル、アップルなどが日々の話題をさらっている。一方、クリーンテックに関しては、トヨタとGMの合弁会社「NUMMI」工場跡地に進出して電気自動車を展開するテスラモーターズを除けば、一般にまで浸透している話題は今のところ少ない。しかし、連邦政府やカリフォルニア州の先進的な環境規制にリードされてシリコンバレーでは着々と次のビジネスをうかがう動きが続いている。

福岡県、北九州市、福岡市は昨年12月にグリーンアジア国際戦略総合特区に選ばれた。その名の通りアジアを展望した特区であり、マーケットの規模と成長性が期待されるアジアを志向するのは当然だが、果たして日本のグリーンイノベーションの拠点としてシリコンバレーとの接点は無いものか。最近のカリフォルニアにおけるクリーンテックに関する動向をいくつか紹介することとしたい。

2.政府の意欲的な規制による新ビジネスの創出

オバマ政権発足以来、連邦政府によりクリーンエネルギーは大型支援を受けてきたが、支援は先細りの状況である。一方で、各州政府は独自に規制を設ける等、地域の役割が高まっている。特にカリフォルニア州は連邦政府や他州に先駆けて意欲的な規制を導入することで、州内への投資資金の呼び込みやクリーンエネルギー分野の新規ビジネスの創出につなげている。

(1)グリーン・ニューディール
2009年オバマ政権発足時によく耳にした「グリーン・ニューディール」とは、「米国再生・再投資法」を成立させ、低所得者向け住宅の断熱工事への補助や、再生可能エネルギー事業者を対象とした税控除、省エネ対策をとった家庭への減税などを実施してきたもので、米国のクリーンエネルギー業界にとっては大きな追い風となった。国立再生可能エネルギー研究所によれば、米国のクリーンエネルギー市場は2030年には200億ドルに達し、建設機械市場などと同規模になると予想されている。一方、連邦政府による補助は今後、段階的に縮小していく見通しだ。

出典:Beyond Boom &Burst, Brookings Institute, April 2012
(2)新CAFÉ規制
2011年7月、米政権は自動車メーカーや労働組合と合意し、メーカー別の販売車両の平均燃費値について、2016年モデルで35.5mpg(15.1 km/ℓ)という規制値を、2025年モデルで54.5mpg(23.2km/ℓ)にまで引き上げることを発表した。この水準は現行のトヨタ・プリウスの市街地混合測定値を超え、エンジン単体の車両で達成することは難しいとされている。そのため今後、アメリカで販売する各自動車メーカーは、ハイブリッド自動車や電気自動車などの導入に拍車をかけていくものと考えられている。

(3)カリフォルニア州の先駆的な取り組み

  • 2006年カリフォルニア州は連邦政府や他州に先駆けて温室効果ガス排出量を2020年までに1990年レベルまで削減する「カリフォルニア州地球温暖化対策法(AB32)」を制定した。2012年から大規模施設を対象にキャップ・アンド・トレード型の排出量取引制度を実施し、2013年から排出削減を義務づけている。
  • 2011年1月から、すべての新築の建物に高いエネルギー効率と環境に対する配慮を義務づけた「CAL Green Code」を施行。全米では初めて法的強制力を持ち、水の消費量を20%削減すること、埋め立て地に廃棄する建築廃材を50%削減すること、汚染物質の発生の少ない資材を使用すること等を求めている。
  • 2011年4月、電力の33%を2020年までに再生可能エネルギーで供給することを義務づける法案を制定した。2008年には当時のシュワルツネッガー州知事が非現実的な数字として署名を拒否したほどの高い比率で、相当な対策が必要だといわれている。

3.シリコンバレーの動向

(1)成長分野
ベンチャーキャピタルのカリフォルニア州における投資動向を見ると、昨年はクリーンテック分野に 35 億ドルを投資し、投資額は年々増加基調にある。項目は、発電、輸送、エネルギー効率化、蓄電で全体のほとんどを占めるが、特に太陽光発電、電池、代替燃料、節水技術への関心が高い。
出典:Cleantech Group, April 2012
カリフォルニア州フリーモント市のソリンドラ社
  • 蓄電:前述の通り、カリフォルニア州内の電力会社は8年以内に代替エネルギーの比率を1/3に高める必要があり、太陽光や風力から得られる不安定な電力を貯める技術に関心が高い。カリフォルニア州は蓄電技術の特許数が常に全米トップで、2008-2010年の特許件数は258に達するとともに、その前の期間より55%増えている。蓄電の分野は今後最も成長が期待される分野といえよう。
  • 太陽光発電:ベンチャーキャピタルが急成長を望む分野ではなくなってきているが、高効率化や薄型化への関心は引き続き高い。また、アップルがノースカロライナに持つデータセンターは、今後100%再生エネルギーで電力を供給する計画で、全米で最大規模の自社所有の太陽光発電や燃料電池のシステムを建設中である。こういった需要が今後も拡大していくことが予想される。
  • 燃料電池:昨年はバイオ燃料がジェットエンジンに試験利用されたことなどが注目を集めたが、いまのところ米国における代替エネルギーは燃料電池がリードしている。シリコンバレーのBloomenergy社が中規模オフィス向けに提供している「Bloom Box」は寿命が10年ながら、5、6年で投資コストを回収できるため、グーグル、ウォルマート、eBay等の大企業で利用が進んでいる。

(2)大手企業の研究拠点の新たな進出
ゼネラルエレクトリック(GE)は今月10億ドルを投じてシリコンバレーに400人規模のソフトウェアの研究所を開設する。エネルギー効率化、マシン同士が通信する「マシン間通信」の増進などに関する研究開発を行う拠点である。また、ルノー・日産アライアンスは、昨年、マウンテンビューのグーグル本社付近に研究所を開設した。自動車関連のIT技術等を研究する拠点として、カルロス・ゴーン氏は「自動車をsustainable transportation(持続可能な輸送手段)にシフトさせるための先導だ」と話している。これらの企業は、シリコンバレーを選んだ理由として世界最大規模のソフトウェア開発人材の集積をあげている。

(3)起業支援の動き
前回のレポートで紹介した「Y Combinator」や「500 Startups」と同じく、起業家にオフィススペースを提供しながらアドバイザーや投資家のネットワークにつなげていくアクセラレータと呼ばれる組織のうち、エネルギーや輸送分野の効率化につながるソフトウェアの分野に特化した「Greenstart」が昨年9月からサンフランシスコで活動を始めた。大企業ほどの大きな金額を投資できないベンチャーキャピタルやエンジェル投資家にとって、クリーンテックは失敗も多く投資資金の回収に時間もかかる難しい分野である。同社が成功できるか今後の動向が注目される。

4.最後に

5/24 出展のバナー「北九州スマートコミュニティ創造事業」の活動がきっかけでNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)シリコンバレー事務所から紹介を受け、当事務所はシリコンバレーで環境問題に取り組む「Sustainable Silicon Valley(以下、SSV)」にパートナーとして参加した。SSVは主にシリコンバレーの行政機関や企業、大学が参加し、地域のCO2や水利用の削減などを目的に、年間を通してフォーラム等を開催し知識の共有やネットワークの形成を促進する団体である。設立から約10年が経過し、現在はシリコンバレーに留まらずグローバルな活動を志向し始めた。

5月24日には年に1回の大型イベント「west summit」が開催され、当事務所はグリーンアジア特区の紹介とともに、既に福岡から米国進出しているTOTO、安川電機、そして今後の進出を展望する九州大学応用力学研究所(風レンズの大屋教授)、なうデータ研究所に呼びかけて共同のブースを出展した。当日は三菱商事がパネルセッションに参加、三菱自動車が電気自動車の試乗会を開催、閉会のスピーチはサンフランシスコの猪俣総領事がつとめる等、事務局トップが環境問題を日本から学ぼうとしている姿勢を明確に伝える日本色の強い内容となった。

この団体の活動で最も期待しているのが「EcoCloud」というインターネット上の情報交換のためのプラットフォームである。単発のイベント出展に終わること無く、関心が高くかつ有力な人達のネットワークの中に、継続的に情報を発信し交流し続けることでコネクションをつくれることがメリットである。シリコンバレーの良さは、ボーダーレスに人が集まる場をつくり、人々が積極的に意見交換し新たなビジネスのアイデアを探り、このように成功するかわからないプラットフォームもまずはやってみるという動きである。今回の出展企業や大学に限らず、今後、米国進出意欲がある福岡のクリーンテック企業には幅広く参加を募っていきたい。