サンフランシスコ事務所 仲谷隆造 (PDF File)

1. はじめに

2011 Fukuoka Ruby-Nights「この賞の告知は何年も見ているが、どういう基準で優勝者が選ばれるのか説明がなく、過去の選考結果を検索しても見つけることができない。」プログラミング言語Ruby1 を愛好するシリコンバレーのエンジニア約3千人が参加するグループメールで、当事務所が行った「フクオカRuby大賞」の英語での告知活動に対して流れてしまった批判である。

Rubyを使った製品やサービス等のコンテスト「フクオカRuby大賞」2 は今年で4回目を迎え、11月3日には福岡Rubyビジネス拠点推進会議のミッションにあわせて初めてシリコンバレーで予選会を開催した。日本国内では「Rubyといえば福岡」という高い評価を確立しているが、このコンテストを成立させるためには世界中から集まるシリコンバレーの優秀なエンジニア達に応募してもらわなければならない。ところが告知活動を始めた矢先に、これまでのウェブサイトでの「英語の情報公開」が乏しいことを指摘され、賞そのものの信憑性までもが問われるような事態となってしまった。

そこで大至急、ウェブサイトやソーシャルメディア、ブログなど活用できるあらゆるツールで追加の情報提供を行い、結果的にはシリコンバレーだけでなくアメリカ東海岸やオーストラリア、ドイツも含めて12件の優秀な応募を得ることができた。中には業界をリードする企業のトップクラスからの応募もあり、質・量ともにコンテストを充足することはできたといえよう。シリコンバレーでは「日本人による日本人のための」イベントから脱却することが難しいが、このコンテストは「日本人によるシリコンバレーのための(つまりグローバルに人々のための)」イベントに仕立てて福岡の本選へとつながった。マイナス評価から始まっただけに学んだことは多い。海外から見ると日本は言葉の面でも組織の面でも閉じた印象である。コンテストだけでなく企業訪問などミッション全体のアレンジを通して垣間みた日米のビジネス環境の違いを紹介することで、日本からグローバル化を目指すために必要なことを伝えたい。

1. 「Ruby」は日本人によって開発されたプログラミング言語で、プログラムの記述量が少なく、作成が容易なため、迅速かつ低コストでのソフトウェア開発を実現する極めて生産性の高い言語である。

2. 本県では、Ruby によるソフトウェア開発を通じた県内ソフトウェア産業の振興を目指し、2008 年から、新製品の開発やビジネスマッチングを進めている。その取組の一つとして、Ruby を使った製品やサービス等のコンテスト「福岡 Ruby 大賞」を毎年実施している。

2.シリコンバレーはコネがすべて

このRubyミッションも含めて、日本から調査目的でGoogleやAppleをはじめシリコンバレーの企業を訪問したいというニーズは多い。しかしシリコンバレーの企業にとっては、相手がどれだけ名の通った会社か政府であるかという「看板」よりも、ビジネスに直結するメリットがあるかどうかの方が大事である。そのため調査目的だけの訪問の調整はとても困難で、それでも情報を得たいなら対価(情報料)を払うべきだといわれかねない。

このように書くとアメリカ人はドライだと言われるかもしれない。しかし、日本における社内異動と同じくらい頻繁に個人が転職するアメリカでは、人々は組織に守られているという意識は低く、社会の中で信頼できる人とのつながりを蓄えておくことを大切にするため、知人同士の助け合いはアメリカでも有効である。よって、このような企業訪問の調整では、いかに相手方の企業の中の会いたい人を特定し、日頃から顔を広め、知人をたどりながらその人に到達できるかが鍵となる。

当事務所は2003年の開設以来、福岡からの派遣者は変わりながらも当地で様々な人々との人脈を形成してきた。これが福岡の企業がシリコンバレーに出てきて活動する際の最大の財産となっている。更に福岡Rubyの場合は、Ruby開発者「まつもとゆきひろ」氏が支援してくれている。まつもと氏はシリコンバレーに限らず世界中のRuby愛好家から敬愛されているので、まつもと氏が同行するといえば話が早い。また今回はミッションのオーガナイザーにベンチャーキャピタルの「サンブリッジ」を迎え、彼らが培っているシリコンバレーの「アンブレラレベル」といわれるトップクラスの人脈から紹介を得られた。

「福岡といえばRubyだが、何故Rubyなのか」と問われることが多い。勿論、Rubyの優位性もさることながら、最首氏が率いる日本最大のRubyエンジニアのグループが福岡にあることも含め、これらの人々のつながりが福岡のIT業界をシリコンバレーからグローバルに展開させるための大きな財産であることは確かである。

3.3日経てば3年

「3日経てば3年」という例え話―メールを送った日に相手から返事が無い。恐らく今日は余程忙しいに違いないと考える。2日目も返事が無い。きっと何かあったのではないかと心配になる。3日目になっても返事が無い。するとメールを送ったこと自体が3年前のことのように風化していく―情報が溢れかえり、モバイル端末とクラウドサービスの普及で通信環境さえあればいつでもどこでもつながるようになり、益々スピードが要求されるようになってきたのである。

果たして今回のミッションの訪問調整で、クラウド業界の第一人者ともいうべき人物をはじめ、シリコンバレーのトップクラスの方々と直接やりとりする機会があったのだが、とにかく彼らの応答は素早かった。前述の「コネ」のお陰もあるのだが、彼らの多くは日々、世界中を移動しながら日程調整のような連絡も部下任せにせず、本人が直接やりとりするのである。

日本の大きな組織で担当者が窓口となり、何段階もいる上司の決裁をとっていてはこのスピードについていけない。関心が低い話ならしばらく放っておいても構わないが、自分の利益になる話は即座に返事をしないと取り逃すことになりかねない。日本は組織構造の見直しが必要になっているのではないかと感じられる。

4.電子メールからチャットへ

下図は、年齢層毎の電子メールの利用状況を2009年と2010年で比較したものである。特に12−17歳は顕著だが、55歳以上を除けば全体的に電子メールの利用は減っている。

フェイスブックやツイッターなどでのプライベートなテキストメッセージが電子メールを置き換えていることが主な背景だが、ビジネス利用においても同様のことが言える。前述の通り激しく情報をやりとりする「3日経てば3年」の世界では、本当に忙しい人と連絡をとる最終手段は電子メールでも電話でもなく、いまはスカイプやフェイスブックなどのチャットである。相手がオンラインであるかどうかを確認することができ、メッセージを送信すれば音と視覚で相手に伝わる。電話は忙しければとってもらえないが、チャットなら記録を残し、また後から全てのやりとりを見返すこともできる。日本ではスカイプができない職場も多いようだが、便利なものは使うことを前提にルールを定めていく必要がある。

年齢層毎の電子メール利用状況(出展:comScore)
年齢層毎の電子メール利用状況(出展:comScore)

5.欠かせないクラウドサービス

下図は2010年度のクラウドサービスの利用実績に関する日米比較である。米国の企業は64%が利用しているのに対し、日本での利用は26.1%に過ぎない。
クラウドサービスの利用実績の日米比較(平成 23 年版 情報通信白書)
クラウドサービスの利用実績の日米比較(平成 23 年版 情報通信白書)
今回のミッションは日米の4組織で調整し、それぞれの組織に付随する職場所在地の異なる関係者も多くいたため、クラウドサービスでの情報共有が効果を発揮した。諸々の資料は「Dropbox」というサービスで共有し、リアルタイムでデータの修正が必要なものはグーグルドキュメントを使ったのである。コンテストの募集や結果報告では、約17万人の(重複を含む)Rubyエンジニアが在籍する約100のRuby関連のグループをリストアップし、それらに日米の3者から同時に告知活動を行ったので、リアルタイムで他の2者の作業状況が見えるグーグルドキュメントのスプレッドシートが機能した。

実は4組織のうち一カ所は内部の規定でクラウドサービスの利用が制限されていて、上記のサービスを利用することができなかった。まるで4人の中の1人だけ電話が無くて、その人とは手紙でやりとりをしたかのような感覚である。日本のクラウドサービスの導入の遅れは様々な背景があるが、みんなが使うものを使わなければ、それだけでグローバルなビジネスではチャンスを逃しかねない。

6.英語ウェブサイトの重要性

冒頭の事例の通り、中途半端に英語のウェブサイトを作成していても、いざアメリカ、あるいはグローバルに事業をしようとすると役に立たない。
当事務所は過去3年、Meetup(前回のレポートで紹介したコミュニティ活動)やブログなどで何万人ものRuby愛好家が所属するグループに対して英語で募集活動を行ってきた。毎年、フクオカRuby大賞の全体の約3割にあたる数十件の応募は海外からで、告知活動はそれなりにやれている「つもり」になっていたのである。ところが、いざ実際にアメリカでイベントを行おうとしたら、如何に情報発信が出来ていなかったかを痛感することになった。

的確な英語で頻繁に、かつタイムリーに情報を更新するにはネイティブの人材が必要である。逆にいえば、それをやりさえすればグローバルに通用する事業はたくさんあるはずだ。積極的にグローバル化をしたい事業については、英語版のウェブサイトの構築や運用はアメリカにパートナーをもって任せることを薦めたい。

当事務所では、福岡に関するオンライン上の英語情報を増やすことを目的に「myfukuoka.com」というブランドで活動している。例えば県庁や県内の団体が、アジアといわずグローバルに英語で募集活動できるような事業については、その英語ウェブサイトを「myfukuoka.com」に移管して、当事務所のネイティブ担当者によりウェブサイトやソーシャルメディアを使って頻繁な双方向の情報交流をするのも一案である。

7.最後に

11月3日はスタンフォード大学でコンテストを開催したのだが、その前の時間帯にビジネススクールの学生向けに福岡Rubyが講義をする機会を得た。スタンフォードは世界有数の大学であり、ここで福岡Rubyが講義をしたことは名誉なことである。ところが学生が十分に集まらず、同時にこのイベントは今回最大の反省材料にもなってしまった。背景には、スタンフォードのアジア研究が近年もっぱら中国に目が向いていて日本への関心が低下していること、そしてスケジュールが他の日本の経済関係の大きなイベントと重なってしまったことがあった。また、コンテストでも日本のメディアの取材はあったものの、テクノロジー系のブログやシリコンバレーのローカルのメディアを呼ぶことはできなかった。

昨年のミッション時に開催したイベントにおけるまつもと氏の講演はYouTubeに投稿され約5,600回視聴されている。何十万というような単位ではないが、コンテンツとしては一定の評価を受けているといえよう。今後のRubyのためにも福岡のためにも、投資家とメディアをどれだけ呼べるかが本当の意味での成否を決するのであり、いかに人々の関心を惹き付けるか、メディアの関心を呼ぶことができるかが今後の課題となった。

いまや自動車産業に限らず、農業、教育、ヘルスケア等の分野でもITを活用した生産性の向上やイノベーションが競われている。孫正義氏が述べた「これから学ぶべき3言語は、日本語、英語、そしてIT語」という言葉が印象深い。シリコンバレーはITのメッカとして世界が注目することから、シリコンバレーでマーケティング活動をすることがグローバル展開のためには最も近道だと考えられている。単にIT業界だけでなく、その対象はITを活用する様々な分野に今後広がっていき、シリコンバレーの重要性は益々高まっている。