サンフランシスコ事務所 仲谷隆造 (PDF File)

1. はじめに

Meetupのロゴ「ミートアップ」という言葉を福岡で聞くことはあるだろうか。ここ数年、東京の一部のIT関係者や外国人の間で使われ始めた言葉だが、インターネットで告知して共通の関心事を持った人々が集まる定期会合のことをいう。語源の「meet up」は「集まる」の意味で、アメリカでは「Meetup(www.meetup.com)」というウェブサイトが普及し、ミートアップといえば一般的にこのサービスを使って集まる会合のことをいう。ITに限らず様々なテーマのミートアップが、毎日、全米のあちこちで開催されている。

なでしこジャパンが勝利した女子サッカーワールドカップの決勝戦では、1秒当たり7,196回というツイート(インターネット短文投稿サイト「ツイッター」への投稿)新記録が樹立された。それまでの記録も日本の2010年大晦日であることから、日本人はとりわけツイッターが好きなようだ。また、昨年からは名前も顔も明かして人とつながるフェイスブックが、匿名性を好んできた日本で普及しはじめた。オンライン上とはいえ、ソーシャルメディアが公衆に向かって発言することへの壁がなくなり、日本でも人々の意識は変わりつつある。

しかし、アメリカと日本では少し取り組みが違うようだ。昨年6月のレポートでは、アメリカで進むソーシャルメディアのビジネス利用、ブランディングやマーケティングへの活用を紹介したが、日本では未だにこの分野の普及は遅れている。もう一つ、ここでミートアップを取り上げることで、ビジネスに限らずアメリカの人々がオンライン/オフラインでどのように交流しコミュニティを形成しているか、そこに見られる日本との意識の違いを紹介したい。

シリコンバレーには風通しの良いコミュニティがあり、それが次々と新しい基盤となるようなビジネスを生む支えになっている。日本/福岡が、追い上げるアジアの国々との競争の先に求められているのは、組織内に閉じられた、あるいは序列が持ち込まれたコミュニティ活動だけでなく、組織や所属を超えて共通の関心事を持つ見知らぬ人達が交流するコミュニティ活動、そこから生まれる新しいアイデアや行動ではないだろうか。

2.Meetupとは

(1)生活インフラのような存在
Meetupは2002年にたちあがり、普及し始めてからの日はまだ浅いが、今やなくてはならない存在である。主に月1回程度、同じ場所で集まるようなイベント(ミートアップ)を登録するもので、個々のミートアップには数人のものから何千人の会員を持つものまである。テーマはビジネス、芸術、食など何でもありだ。例えば、ニューヨークには約7,000件、サンフランシスコには約3,000件登録されている。英語のみのサービスだが、東京にも約200件、京都に約20件、福岡に2件ある。

「Craigslist(クレイグリスト)」といって、不動産でも自転車でも仕事でもなんでも売買/賃貸を仲介するまちの掲示板のようなサービスがあるが、このサービスはいまや「掲示板」という言葉の代名詞である。MeetupやCraigslistといった誰もが使うウェブサイトの存在は、そのまちの活動に欠かせないインフラになっている。日本にもこのようなウェブサイトが育てば、「よそ者」がやってきた時にもっと活動しやすい環境となる。これらに加えて「TripAdvisor(トリップアドバイザー)」のような旅行のクチコミサイトでも英語の書き込みが豊富になると、まちの存在感がグローバルに高まり、観光客の増加や外国からの移住に貢献すると考えられる。

(2)見知らぬ人との出会い
通常ミートアップは限られたスペースを借りて、1回毎の参加者は数十人に制限されていることが多い。看板もチラシも必要なく、簡単な受付とピザ(と少量のビール)を置くだけで、後は共通の関心を持った人々が出会って話すだけである。この飾らない、気楽な感じも参加しやすくするための大事な要素だ。

アメリカ、特にシリコンバレーでは、見知らぬ人と出会った時に言葉を交わすことが当たり前で、どこでも人と出会ったら挨拶代わりに話しかける。また他人が何か自分の気に入ったことをしていたら、積極的に声をかけて褒める風習がある。日本だったら見て見ぬ振りをしてしまうところで、このようなアメリカの習慣がミートアップのような出会いの場を盛んにしやすいのだろう。

またアメリカでは転職が当たり前であり、アフター5は自分の時間である。残業をすることも家に帰って家族と過ごすこともあるが、ミートアップは自分の現在の仕事の課題解決や、次のステップに向けての活動、あるいは趣味などに活用できる。日本のように、同じ職場や所属の人達、仕事の関係者などとアフター5まで付き合い続ける機会はその分少ないのである。

ミートアップに参加するのも、新たにミートアップを自分で立ち上げるのも本人の自由である。またそこで何を得られるかも自分次第である。アメリカではそこに価値を見いだし、前向きに活動している人が多い。オープンな環境で、積極的な人が多いほど、そのまちのミートアップは活発になり、その動きがインターネット上でも見えてくるのである。

(3)テーマごとに人を束ねたまちの情報
Meetupは各々のまちのイベントを把握できるところが便利で、他に「Zevents(ズーヴェンツ)」やイベント参加費用の決済で便利な「Eventbrite(イヴェントブライト)」など、いくつかのイベント情報のプラットフォームとして定着したウェブサイトを見に行けば、初めて訪れたまちでも簡単に行きたいイベントを探すことができる。また、何に関心を持つ人がどこにどれだけ居るのかという情報なので、よくよく見れば、そのまちの人々の大まかな趣向が見えてくるともいえよう。

ここで当事務所のMeetupの使い方である。「フクオカRuby大賞」への募集でも、シリコンバレーでのイベント「Fukuoka Ruby Nights」開催でも、Meetupで「Ruby」をキーワードに検索すれば、全米に無数ともいうべきミートアップを見つけることができるので、地域を選んで各々のミートアップの管理者にメッセージを送り、その会員への告知を促すだけで主要な対象に案内が届くと考えてよい。もし、他にもアメリカで募集したい事業があれば、同じように対応することが可能である。日本にもこのような情報源ができると、何かのイベントを開催するにも集客はかなり楽になるであろう。

3.シリコンバレーの溜まり場

シリコンバレーには溜まり場は数知れずあるが、ここではそのうちユニークな常設の施設を紹介する。いずれも建物は既存の倉庫等を再利用した質素なものだが、そこに集まる人々の積極的な姿勢によって魅力的な場となっている。
Hacker Dojo(ハッカードージョー)(1)Hacker Dojo(ハッカードージョー)
2009年に32人の有志で立ち上げられたワークスペースである。GoogleやNASAなどのエンジニア、これから起業しょうとしてまだ机も無い人、投資家などがメンバーに名を連ねている。365日24時間入館することができ、倉庫を改修した館内で、適当に置かれた廃品利用のような机や椅子を早い者勝ちで使う。各種イベントやミートアップ、メンバーの集まりも定期的に開かれている。

実は私はここのメンバーだが、特に用がない限り出かけて行くことはなく、メンバーのほとんどの顔を知らない。しかし、価値があるのは毎日活発にやりとりがあるグループメール(電子メール)だ。例えば、このところ当地ではすぐにビジネスにつながらない日本からの企業視察依頼はお断り、という風潮が強いのだが、この顔も知らないメンバー達は積極的に可能性を探って助けてくれる。もともとここは積極的に助け合おう、関わりを持とうという人達の集まりなのである。ちなみに先日、当事務所が毎日新聞全国版の夕刊に掲載されたのも、このグループメールがきっかけだった。

Tech Shop(テックショップ)(2)Tech Shop(テックショップ)
ものづくりの人達が集う会員制のワークスペースである。金属や樹脂、木材など何でも加工する機材が揃い、3Dプリンターまで置かれている。グーグルの懸賞金で月に打ち上げるロケット燃料タンクが作られていたり、自家用車や家庭で用いる機材を全くの素人が直していたり、集まる人も理由も様々だ。ここでは掲示板が機能していて、集まる人々の様々なニーズを仲介し「Craigslist」のようだ、とのことである。セミナーやミートアップも行われている。

ITのメッカ、シリコンバレーでものづくりは珍しいが、ガレージ風の粗末な建物にオープンなコミュニティという発想はシリコンバレーである。いまはサンフランシスコとサンノゼという2大都市の中心部にも開設され、間もなくフォードが資金提供してデトロイトにも進出する。電気自動車のテスラ(シリコンバレー)がトヨタ/GM(デトロイト)合弁のNUMMI(ヌミ)の工場を買い取ったが、シリコンバレー発のものづくりの溜まり場が自動車産業の本場デトロイトに進出するのは興味深い。日本もこの動きを捉えておく必要があるのではないか。

4.日本人の取り組み:OWFβ

シリコンバレーの日本人による「オープン・ウィズダム・フォーラム(OWF)」というグループがある。当地で成功した起業家や投資家、コンサルタント、駐在員等が主なメンバーで、まだβ(ベータ)とつくだけあって発展段階だが、活動が興味深い。
月1回の定例会があり、簡単な夕食をとりながら5分程度の持ち時間で参加者が全員発言し、それに対し自由に議論が進む。「あらゆる権威を排し、若者もノーベル賞受賞者も対等で、民主的な討論が絶えず交わされ、新しい世界に挑戦し続ける」というボーア研究所の方針「コペンハーゲン精神」を掲げているのである。日本にいたら対等に話し合えないような人達と、フラットにオープンに対話できるところが魅力だ。ここでもグループメールが機能していて、日々、有益な情報が飛び交っている。

5.福岡に可能性あり

福岡の一つの「コミュニティ」を、シリコンバレーのある著名な投資家と起業家が高く評価した。博多駅近くの福岡県Ruby・コンテンツ産業振興センターを訪問し、入居企業と交流した感想は、活発な意見交換が行われたわけではないが、そこに居る人々のクウキの良さだった。これは他ではなかなか見当たらない強みとのことである。

福岡には目立つスタートアップの企業が現れ、9月は「スタートアップウィークエンド」が行われ、11月には「明星和楽(みょうじょうわらく)」というテキサスのイベントを模した3日間の大規模なイベントが予定されている。いまの福岡には、外の人達が何かを期待する流れが出てきている。

アップル社が計画中の新社屋は地上4階建てのドーナツ型だが、シリコンバレーは「エスタブリッシュメント(確立された社会階層・勢力)」を嫌い、高層ビルを誰も建てない。よって、空港のお陰で建物が低い福岡は好意的に見られるのかもしれない。また豊かな自然と同居している環境はシリコンバレーと共通している。屋台や山笠の存在も活発なコミュニティを彷彿とさせているのであろう。立地環境だけなら、福岡にサンフランシスコ/シリコンバレーを重ね合わせてしまう。

ただし指摘されたのは、まだ、新しいビジネスが産まれるような環境ではないということ。アメリカにいると、中国、韓国、インドなどの躍進を目の当たりにして危機感が募る一方だ。一つ一つの小さなレスポンスがことごとく遅い日本は、「日本だから仕方がない」が定説になっていて、経済力が強いうちはそれでも相手は我慢するが、いまやアジアの他の企業で結構、ということを時々耳にしている。

新しいアイデアや行動を起すためのオープンなコミュニティ活動を高めることが、いま求められているのではないだろうか。