サンフランシスコ事務所 仲谷隆造 (PDF File)

1. はじめに

「このささやかな受賞で、突然みんなが名前を正しく覚えるようになる。“It’s Hyundai(ハンディ), like Sunday(サンディ).”」韓国最大手のヒュンダイ自動車が2009年北米カー・オブ・ザ・イヤー初受賞後、広告料金が世界一高いといわれる「スーパーボウル」で流したテレビCMである。ヒュンダイ自動車は、アメリカ人が“Hyundai”を読めないことに苦労し、1986年のアメリカ進出以来、何とか自社の名前を読ませようと莫大な広告費をかけてきた。“hyu” が発音できないのが原因で、イギリスでは一般に“hy/un/dai” に分けて「ハイ・ウン・ダイ」と呼ばれるそうだ。それを敢えて “y” を読ませないで日曜日の「サンディ」らしく、「ハンディ」と読ませようというのである。これにはロゴマークも含め、日本の「ホンダ」を意識しているとの指摘がある。実際にラジオで宣伝を聞くと、ヒュンダイを知らなければホンダ(アメリカでは「ハンダ」の発音に近い)と勘違いしてしまう程だ。
ヒュンダイのCM
ヒュンダイのCM
かつての「海外」や「国際」という言葉が「アジア」に置き換わったかと感じる程、いまの日本はアジア一辺倒に見える。しかしグローバルに浸透しているブランドの多くはアメリカ製だ。仮に中国ビジネスを狙うにしても、ブランディングはアメリカのパートナーと組んではどうか。いまのところ日本のブランドは、「Cool Japan」どころか「Mottainai Japan」といいたくなる状況にある。熾烈なブランド競争は自動車業界だけでなく、ライバルも韓国勢だけではない。「顔の見えない日本」という言い方があるが、ブランディングにおいても一部の企業を除き日本はもっとどん欲になるべきだ。グローバルなブランドは誰もが読めるようにアルファベットで書かれ、目で見る「文字」だけでなく耳で聞く「音」も大事である。コミュニケーションの多くは音に頼るからだ。ブランド力をつけるには、英語をもっと理解しなければならない。

2.世界の中の日本のブランド

ブランド価値ランキング右表はインターブランド社が集計し、ビジネスウィーク誌が発表した2010年のブランド価値のランキングである。大半は米国企業で、トップ100社のうち日本企業は11位トヨタ、20位ホンダ、33位キヤノン、34位ソニー、38位任天堂、73位パナソニックだけで、日本の経済規模と比べると非常に少ない。また、他のアジア企業は19位サムスンと65位ヒュンダイの韓国2社しか入らなかった。

インターブランド社は、今年5月「海外での日本のブランド力に対する震災・原発事故の影響」に関する定量調査を発表し、日本の安全・信頼のイメージが大きく毀損していること、一方で、その影響は国や業種などで大きく異なることを指摘した。日本のブランドは今後、更に厳しい状況が予想されている。調査の中で興味深いのは、韓国のヒュンダイとサムスンについてアメリカとイギリスの約半数の生活者は日本のものだと思っていることだ。韓国企業は日本を上手く利用し、一方の日本は品質や技術力での差別化が困難になる中で、新たな競争優位の源泉としてブランドの価値が必要になっているはずである。ランキング1位のコカコーラはブランドで成り立っている企業として、象徴的な存在といえよう。

日本のものだと思うブランド
日本のものだと思うブランド

3.他国が築く日本のブランド

疑似日本製品商品ヒュンダイやサムスンだけが日本のものだと思われている訳ではない。左の写真はニューヨークの中国系食品スーパーで売られている食材の一例である。表に日本語で「えのき茸」と書かれているが韓国製だ。「有機」と書いていたり、日本人でも裏返さないとわからない程、日本製と見まがうようなデザインのものもたくさん置かれている。また、「九州ラーメン」と名付けた韓国製品まで見つけることが出来た。

残念なことに、中国系や韓国系スーパーの方が、日系スーパーよりも日本の食材が充実していることがある。中国人や韓国人のアメリカ進出は盛んな一方、日本人は海外に出なくなってしまった。また中国人は中国の食材よりも日本の食材を信用している。これらの事情を反映した結果といえよう。

日本人が海外に出ない間に、中国人や韓国人が日本製と、日本製に見まがう製品を扱って日本の食のイメージを形成しつつある。アメリカにおける“Sushi”ブームも、多くの担い手は日本人以外ではないか。韓国人などが経営するSushiレストランを多数見かけ、中には人気店も多いが、それらの店の味は日本人の口には決して合わない。このように「寿司とは何か」でさえ、このままでは知らぬ間に日本人の手に寄らずに決まって行くことが危惧される。

4.Fukuoka問題

サンフランシスコ事務所のロゴ福岡の英語綴りがアメリカでどれほど忌避されるかは、暫くアメリカに居てみないと実感できない。“How do you pronounce it?”と質問され、いかに正確に「フクオカ」と答えても、更には名刺の裏に“Foo-Koo-Oh-Kah”と読み方まで記載して見せても、ことごとく“I can’t pronounce it.”と返されてきた。何故“I can’t pronounce it.”(発音できない)なのか。冒頭のヒュンダイは発音を押し付けようとしているが、これはアジアに限らずヨーロッパの名称でも困難なことが多い。アメリカ人にはアメリカ流の読み方があるため、その特別な読み方を一般常識化しない限り浸透させることは出来ない。

アメリカ人がFukuokaを読もうとすると、“fuk/u/ok/a” と分けることになる。最初の“u”はウの音ではなくアであり、アメリカでは絶対に口にしてはいけない言葉と同音で始まり、その後の続き方まで悪い。つまり“c”が入っていなければ良いという問題ではないのである。福岡空港の略号のアルファベット3文字(FUK)の印象の悪さは際立っており、空の玄関の名前としてはあまりに残念である。

また、この3文字を福岡の会社が食品のラベルに載せてアメリカでプロモーションしたこともあった。空港名称との関係はわからないが、公共施設の名称は2次的な影響も起しうるために注意が必要である。更に、福岡には“f−”をプロジェクト名や企業のウェブサイトのアドレスに見かけることがある。上記の言葉を婉曲して“f-word”と呼ぶことから、“f−”は非常に悪く言うときの使い方であり、これらのプロジェクト名やアドレス名は、今すぐにでも変えるべき悪い表現である。

ここで、自分はアメリカとは関係ない、という発想はもはや許されない。アメリカでは情報をインターネットに頼る傾向が日本より強く、Wi-Fi環境の整備やスマートフォンの普及は日本より遥かに進んでいる。情報は国境に関係無くつながっているため、わざわざアルファベットで表現したためにアメリカの方から知らぬ間に忌避され、それがアメリカに留まらずに他の地域にまで広まらないとも限らない。これではあまりに勿体ない。対策は、①多額の費用をかけてマスメディアで浸透させる(ヒュンダイ)、②多大な人手をかけてソーシャルメディアで浸透させる、③FをHに代える、のいずれかで、個人的には③を推奨したい。例えば、アメリカに移住した人が「井上」という名字を“Inouye”と綴るのは、長年の知恵と工夫の結果である。いまや移住していなくても情報は世界につながってしまった。折角の「福」の字は、Ha/Hi/“Fu”/He/Hoに従わなくても良いのではないか。

当事務所は英語の通称を“Invest Fukuoka” から、“Fukuoka Center for Overseas Commerce in America(FCOCA)”に変更した。“How do you pronounce it?”と聞かれたら“FCOCA”を発音すれば日本語らしく発音できる、と説明するためである。
ソーシャルメディアはマーケティングやブランディングに有効であり、基本は①コンテンツと②ネットワークである。①福岡には企業の製品やサービス情報など、世界がもっと知るべき情報がたくさんあり、それらをマスメディアだけに頼らず、簡単な英語も添えて自分で発信するべきではないか。②myfukuoka.comには“Connecting Fukuoka to the globe.”という副題をつけた。情報を事務所のウェブサイトに載せていても誰も見ない。情報を浸透させるためには、フェイスブックやツイッターを使い、積極的に関わってそれを広めてくれる人のネットワークをどこまで築けるかにかかっている。事務所だけで大きなことは出来ないが、努力はしておきたい。

5.惜しいけれども一番ではない

何故アメリカのブランドが強いのか、専門的な見解ではないが個人的に感じていることは以下の通りである。

  • 世界中から多様な文化と民族が混じり、英語を話せない人すらいるため、日頃から誰にでもパッとわかりやすく伝えることが求められている。そのため表現や色使い、デザインなどがそのまま世界中に持ち出せる状態になっている。
  • 個人を大事にし、ファーストネームを大事にし、発言を尊重し、更にソーシャル(社会と交わる)という日本では馴染まない言葉が幼稚園の遊びの段階から使われている。顔も名前も明かして付き合うようなフェイスブックはアメリカから登場した。個人レベルからブランディングにつながる意識が高い。
  • 当然ながらアルファベットに慣れ親しんでいて、フォントのスタイルの微妙な違いによる印象の差など、日本人にはわからない感覚を持っている。

ニューヨークとバンクーバーに食品のプロモーションに出かけた際に、小売店や業者からパッケージを変えて欲しい、気の利いたラベルを貼って欲しい、という依頼が相次いだ。日本のものは高いが品質は良い。それに見合うだけの見た目を用意して欲しいのである。それが現地では相応しく無い英語や色使いで覆われていては、どんなにモノが良くても買ってもらえない。逆に中身が悪くても、パッケージが良ければ商品は売れてしまうのである。日本は能、茶、書、庭、刀、あるいは戦国大名ののぼりまで、より古い伝統の中に世界との共通の美がありそうだ。いまや世界で2番目に大きい企業となったアップル社のスティーブ・ジョブズ氏の大学時代の専攻はカリグラフィー(西洋の書道)である。それが美しいMacを作ったと誇らしげに語っている。

ある自動車雑誌の書評でレクサスに対して“No cigar”というコメントがあった。「惜しいけれども1番ではない」という諺だが、まだレクサスでさえ金持ちの象徴の葉巻をくゆらすイメージが出来ていないという意味であろう。