サンフランシスコ事務所 武濤研二郎 (PDF File)
県産品(特に食品)の海外市場展開を進める本県の企業にとって、米国は魅力的な市場だが、マーケティングに長けた競争相手が多い市場でもある。しかも近年はインターネットを利用したマーケティングの方法が一層高度化・複雑化している。当所では、県内企業による県産品の米国展開に向けた、市場調査、展示会出展支援や出展後のフォローアップ、個別商談支援等を行っているが、その際の現場での活動の中で我々が米国のマーケティング手法、特にウェブマーケティングの変化について行けていないことを感ずる。今回は、本県企業にとっての米国向けの物販や企業紹介英文ウェブサイト構築の問題と、ネット上の新たなメディアの活用の問題について述べる。

1. 米国中小ビジネスのウェブサイトと日本企業のウェブサイト

(1)ウェブサイトを信用のバロメーターとしている米国企業
米国では、インターネットを通じた商品やサービス購入が日本以上に普及している。米国内における2009 年のネット販売による小売業の売上は1,560億ドル(約14兆400億円)に達すると予想されている1。業者間の取引においても「詳しくはウェブサイトで」となるし、中小企業が主に出展する食品業界の見本市で出展者のプロフィールを見ると、ほとんどの企業が自社のウェブサイトを持つ。ウェブサイトを持つことは企業としての信用を得る必要最低条件となっている。

(2)日米で差が開く企業ウェブサイトの品質
もちろん日本でも近年は多くの企業でウェブサイトを作成している。しかし、米国企業のウェブサイトと見比べると日本企業のウェブサイトは、日本語版も含め見劣りを感じる。
顧みると、企業ウェブサイトが作られ始めた1995年当時は、ウェブブラウザの機能もウェブサイトの構築技術もシンプルだったこともあり、日米でウェブサイトの機能やデザインにさほどの違いは無かった。しかし、今は米国と日本のウェブデザイン2のレベルの差が大きく開いてきている。米国企業のウェブサイトは、そのウェブサイトの目的(企業間取引のための製品・サービス紹介か、一般消費者向けのネット物販か等)によって、ウェブ訪問者の意思決定プロセスを十分に理解した構造化を行う。そのためウェブの閲覧者はスムーズに自分の目的とする情報に辿り着ける。

(3)日本の企業サイトは「鎖国」状態
翻って、日本の企業のウェブサイトを見ると、総じて努力不足である(もっとも、本県を含む日本の自治体や政府のウェブサイトはさらに問題が多い)。日本語ウェブサイトであれば、普段、様々な日本語での情報伝達手段がある中での補完的な手段として十分かもしれない。しかし、対米進出を図ろうとしている企業が、英文ウェブサイトを日本国内と同じような感覚で構築しただけで良しとすることは有力な情報伝達手段を自ら放棄することになる。
言葉の壁という要因はあるが、日本のウェブサイトは海外に対して閉鎖的だ。インターネットの国別利用者数を見ると、日本は中国(3億人)や米国(2.2億人)についで3番目に利用者が多い国である(8,800万人)。
しかし、実際のインターネットを通じたデータ送受信の都市間のコネクション数で見ると、ヨーロッパと米国は密接に繋がっているが、日本はその他の「インターネット小国」の中に埋没してしまっている。日本はインターネット世界においては「大きな島」として存在はしているが、「鎖国状態」にあることが窺える。
日本の商品や企業プロフィールを、直接日本企業の英文ウェブサイトから探している米国人消費者や米国企業に言わせると、日本企業のウェブサイトはそれが大企業であっても探すのが難しい。SEO3対策も含めて欠陥が日本側にあるように思う。

(4)県内企業の英文ウェブサイト利用の現状
当所が関わる企業の中に、米国市場への展開を考えている県内の食品メーカーや商社は多くおられるが、多くの場合、英文ウェブサイトの準備ができていない。しかし、最近の米国内の食品展示会等での情報のやりとりにはパンフレットよりむしろ事前・事後に詳細な情報やコンタクト先を随時確認し、やりとりできるようなウェブサイト上での情報の提供が大切である。とりあえず、当所では、県の支援で県内企業が出展する食品展示会では、最低限必要な商品・企業情報だけは網羅した英文ウェブサイトを手作りしている。出展される県内企業には、米国では、このようなウェブサイトが展示会等でのプロモーションと同時並行で必要だということをご理解いただきたい。
また、こちらでは、日本企業の英文パンフレットや英文ウェブサイトの英語が「英語になっていない」、「頁の構成が論理立てられてなく分かりにくい」、「表現が魅力的でない」ということを聞く。従来は実際の国外に向けての情報発信の必要性がさほど無かったこともあり、出来が良くなくても悪影響は無かった。しかし、真剣に米国をはじめ海外市場に物を売っていくには格段の努力が必要なようだ。

2.米国中小ビジネスのウェブマーケティング利用の高度化

表1:世界10カ国のSNSやブログの利用状況以上は、単にウェブサイトの基本的な設計(グラフィック、レイアウトや頁間の論理構成等)のみについて見たものだ。ところが、近年、米国のインターネット利用者の間では、単純な従来のウェブサイト閲覧あるいはブログのような従来型のソーシャルメディアの利用に加え、新たなソーシャルメディアの利用が急速に進んでいる。例えば、Facebook4、Myspace5、Twitter6等だ。これらは不特定多数でなく、ある程度緩いつながりのネットワークを形成して、そこでリアルタイムで情報を交換できる仕組みのウェブサービスである。一定のグループが形成されている中でのマーケティングは効率的、効果的であるため、これらのソーシャルメディアを利用したマーケティング(商品紹介や情報収集)が発達してきている。
これらのソーシャルメディアは米国内で開発されたサービスであり、利用者数も、1日に利用する時間も米国が圧倒的に多い(表1)。
そのため、米国ではこのような新たなメディアを用いたマーケティングを、中小企業から個人事業に至るまで積極的に行っている。例えば、TwitterやFacebookのメンバーに対し、会員限定の割引券を配信したり、顧客からの問い合わせに対応したり、会員限定のイベント情報を配信したりしている。ほとんどリアルタイムで情報を提供できるという特徴、個々のつながりを持つ会員の中に企業が入るので、企業に対する親近感を感じさせることができる特徴等を利用して効果を上げている。

3.米国市場向けウェブサイト構築の課題

それでは、米国向けの英文ウェブサイト、特に物販目的のビジネスサイトを構築するにはどうすべきか。まず大事なのは、米国の同じ業種、商品構成、規模の企業のサイトを十分に調査、検討することだ。いくつか使ってみると彼らが、デファクトスタンダードと言える共通の方式を使って販売しているのが分かる。その他、日本の企業の工夫が必要だと思う点を以下に挙げる。当たり前のことだが、これらの原則に沿ったウェブサイトが構築されていないことが多い。

(1)ドメイン名(タイトル、キーワード)
ネットにとって、ウェブサイトのドメイン名やサイトに埋め込むキーワードは、 検索するときの手がかりなので慎重な検討が必要だが、これを疎かにしている例 が多い。顧客の都合でなく企業側の都合の良い名前にしてしまう、日本人の語感 で決めてしまう、綴りや発音に一意性の無いドメイン名、キーワードを使ってし まう等の結果、顧客側が覚えにくく検索しにくい結果を生ずる。検索し易くても英語の意味として不適切な場合もある。
企業名の例では無いが、例えば“Kyushu”は音で正確に綴ることが難しく米国 人には覚えにくい。“Fukuoka”は、綴りにくい上、ときに卑俗な意味に取られる (“Hakata”は、その点、発音し易く、覚えやすくかつネット上で比較的一意性のあるキーワードなので、米国の現場に居る者の意見としては県産品の米国向け統一ブランド名には“Hakata”を使うべきだと思う)。数文字の問題だが、ウェブを利用したビジネスを英語圏で行いたいのであれば、英語のキーワードの出来でウェブマーケティングの効果が違ってくることに留意すべきだ。

(2)ウェブサイトのデザイン(グラフィック、レイアウト、頁間の論理構成)
米国企業のウェブサイトのデザインは日本より保守的でシンプルだ。顧客候補 や取引先候補の意思決定過程を考慮した論理構成を取る。その結果、ホームページと各ページの関係(ページ間の論理構成)も、ウェブサイトの目的によって慣習的に配置が決まる。使用する文字フォントも日本のように何種類ものフォントを使うことは無く2種類程度だ。ボタンの名称や配置も標準的な方法に従う。コンピューター画面は紙面より見にくいので、その上の画像や文字情報のデザインは言語特性の違いから来る、読者側の認知特性(能力)の違いを紙情報よりさらに際だたせる。日本人には見づらくないウェブサイトを米国人は見にくいと感じる。7

(3)ウェブサイトの「重さ」
日本国内で気づかない点としてウェブサイトの「重さ」の問題がある。日本企業のウェブサイトは、米国企業のウェブサイトに比べ読み込みに時間がかかるものが多い。日本より回線スピードの遅い米国のインターネット環境で日本企業のウェブサイトを見ると、さらに読み込みに時間を要する。日米間の通信回線帯域の問題や、サーバー能力の問題もあるが、ウェブサイトのデータ量の問題、作り方(プログラミング技術)の違いも大きい。米国企業は、回線が細くてもストレス無く読めるよう「軽い」ウェブサイトを作る工夫をしている。日本企業が英文ウェブサイトを作成する際にも「重さ」を出さないよう工夫する必要がある。
<為替レート 1ドル=90円>

[脚注]

  1. Forrester Research調べ。2010年はさらに13%増の1,770億ドル(約15兆9300億円)となることが見込まれている。
  2. ここでは、ウェブサイトに関する、グラフィック、レイアウト、頁間の関係付・構造化の設計。
  3. Search Engine Optimization: サーチエンジンの検索結果のページの表示順の上位に自らのWebサイトが表示されるように 工夫すること。
  4. 友達や同僚、同級生、近所の人たちと交流を深めることのできるSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)
  5. 登録ユーザー2億人以上の世界最大級SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)。音楽などのエンターテインメント分野 の機能やコンテンツが充実。
  6. Twitterはリアルタイムで多数にルーティングできる技術サービス。その本質については、在米ITジャーナリスト小池良次 氏のコメントがわかりやすい。「流しそうめんのように、情報(そうめん)がリアルタイムでインターネットの中のいくつも の企業や個人が作った“樋”の中をザーザー流されている。興味のありそうな樋を自分の方にいくつか引き寄せておく。皆 が重要だと考える情報は複数の樋の中を繰り返し流れてくるので、それを好きなときにすくう。あるテーマについてどのよ うな動向であるかが非常に早く的確に把握できる」
  7. 漢字とアルファベットの持つ、表意文字・表音文字の違い、日本語と英語の持つ、語順ルールの厳密性の違い、縦書き・ 横書き等の違いは、日本語使用者と英語使用者との認知能力に違いを生じる。例えば、日本人はアイトラッキングが柔軟で 定型的でないレイアウトでも読みこなす能力が比較的高いようだ。